破綻しない“物語”だからこそ夢を見られる――2.5次元アイドルを求める女子の欲望
もちろんアルスマグナの5人が「イケメン」であることも、単純に人気の秘訣のようだ。「コスプレせずとも十分かっこいい男子たちが、わざわざコスプレをするところにも親近感が湧きます。そのままでも十分かっこいいのに、そのイケメンな素顔を潔く隠して、別人になりきっているところに寛容さを感じるんです」(東京・派遣社員)という。泉奏というキャラクターは、クールなキャラなので、ダンス中も笑みひとつこぼさずクールなまま。「ダンスにもコスプレにも手を抜かずに挑むところ」に、アルスマグナファンは熱狂しているようだ。
■「女子を萌えさせる」ことに隙のないライブ
この女子を熱狂させることへのプロ意識は、アルスマグナのライブにも見ることができる。冒頭のイベントは、アルスマグナのデビュー記念に行った夏合宿(彼らの活動は全て学園の活動である)。札幌、大阪、福岡、名古屋と全国を縦断し、千秋楽を東京で迎えた。
ライブは、お芝居とダンスと歌、映像といった盛りだくさんの構成。ファンは、メンバー5人がキャッキャとはしゃぐ姿だけで癒やされるようだが、ライブ中には「ずっと好きだった女の子に、どんな告白をするか?」というファン絶叫必至の大喜利コーナーも行われていた。
これは最近の乙女ゲームの感覚に近いのではないか。乙女ゲーム『うたのプリンスさまっ』は、アイドルを目指すイケメンたちと恋を楽しみつつ、音ゲーの要素もあるゲームとして楽しむ人もいるようだ。アルスマグナのライブには、そんな「お買い得感」がある。
会場のファンからメンバーへのアクションも活発だ。ライブには「ペンライト」が必需品となっているといい、ファンは皆5色の光を放つペンライトを手に(中には片手に4~5本、扇子のように広げて持つつわものも)参加。マイクを手にしたメンバーのイメージカラーを点灯させたり、メンバーが芝居中に「海がキレイだ」などと言うと、すぐさまペンライトを青色に変え、会場を一面青色に染める。ももいろクローバーZなど、アイドルのライブではこのペンライトをシンクロさせるのがもはや定番となっているが、無言のうちにメンバーとのコミュニケーションを楽しめるのは、ファンにとってたまらないようだ。
また、コスプレでライブに参加するのも楽しみの1つになっている。「コスプレしていると、アルスがこっちを見てくれるんです」(ライブ来場者の会社員)と語るのは、泉のコスプレをしている女性。ライブ中に「目が合った」はファンの一大妄想だが、確かにコスプレは目立つ。メンバーも自分と同じ格好をしているファンを見るとうれしいに違いなく、あながち妄想ではない。アルスマグナ側も「一緒にイベントを作ってる感じがして感謝してます」 という。
コスプレをしてライブに来るメリットは、ほかにもある。ただ「好きなキャラになりたい」という個人の欲求だけでなく、「(好きなキャラが一目でわかるから)同じファンから声をかけられやすい。SNSでつながって、一緒にライブに行くようになったり、友達が増えるんです」(大阪・高校生)と、コスプレはコミュニケーションツールになっているようなのだ。