カルチャー
『なんかおもしろいマンガ』あります ~女子マンガ月報~【8月】

女子マンガに登場する「不倫」する女たち——『あなたのことはそれほど』『おんなのいえ』

2014/08/24 21:00

【単行本】秋田書店がいい仕事をしています! 『恋と病熱』『新月を左に旋回』

(左)『恋と病熱』、(右)『新月を左に旋回』(ともに秋田書店)

 7月は単行本のアタリ月でありました。おすすめしたい作品がたくさんあるのですが、中でも素晴らしかったのが磯谷友紀先生の『恋と病熱』全1巻(秋田書店)と衿沢世衣子先生の『新月を左に旋回』全1巻(同)です。実はともに秋田書店「もっと!」で連載されていた作品なのですが、同誌ではほかにも水沢悦子先生の『ヤコとポコ』や阿部共実先生の『ちーちゃんはちょっと足りない』が話題になったばかりです。共通して言えるのは、マンガ家それぞれの作家性を大切にしつつも、きちっと商業ベースにまで乗せてくる編集者の絶妙なバランス感覚です。『恋と病熱』と『新月を左に旋回』には特にそれを強く感じました。

 『恋と病熱』の舞台はきょうだいの存在を忌み嫌う不思議な世界。双子を忌避する文化があるとは聞いたことがありますが、きょうだいそのものを否定する文化は中国の「一人っ子政策」を除いては寡聞にして存じません。きょうだいを否定することは人口の減少に直結します。2人の親から1人の子しか生まれないのであれば、代を重ねるごとに人口は確実に減って行き、いつかその種族/民族は滅びてしまいますからね。遺伝子の乗り物である生物としては完全にぶっ壊れた状態なのであります。

 そんな世界にあって「恋」とは一体なんのために存在する感情なのでしょう? 忌み嫌いながらも、この世界ではきょうだい同士が出会ってしまうと、強く惹かれ合う運命にあるようです。現代の少子化社会への皮肉に留まらない、重層的でミステリアスで示唆的で、そして怪しくて魅力的な世界。衣装はセーラー服なのに、背景は中世ヨーロッパで、しまいには上海? にまで至る奇妙な舞台設定もとても効果的。何度でも読み返したくなる、磯谷先生の新境地です。

 衿沢先生の『新月を左に旋回』も不思議な物語です。ある日突然、留学すると言って出て行った姉。入れ違いにわが家へとやってきた奇妙な少年。その正体はフクロウの一種、コノハズクの妖怪的な何かだったりするのですが、主人公のユウコは普通に弟のような存在としてかわいがるのでした。

 なんとも魅力を伝えづらいマンガです。衿沢先生の代表作『シンプルノットローファー』(太田出版)のような緩い学園生活や、ユウコとこのはの交流を楽しげに描きながらも、そこに鳥の世界の残酷性や妖怪的な超常現象が挟み込まれ、物語はアクロバティックなラストにたどり着きます。なぜか得られる大団円感は本当に不思議な感覚でした。こういうマンガこそ読む価値があるのだと私は強く思います。

 ほかにも東村アキコ先生の『かくかくしかじか』(集英社)は4巻にしていよいよ佳境に突入。物語全体を通じて「後悔」の感情を強く感じさせる作品ですが、その「後悔」こそが今の東村先生を形作っているのだということもまたよくわかる作品です。「後悔しないように」と東村先生は伝えながらも、また一方では「後悔のある人生もまた豊かである」と表します。本当に、なんという強度を湛えた作品なのでしょう。

 清水玲子先生の『DeepWater<深淵>』全1巻(白泉社)は相変わらずの清水節が冴え渡るダークミステリー。ファンは必読です。オノ・ナツメ先生の『ACCA 13区監察課』2(スクウェア・エニックス)は、なぜかあまり話題になっていないようですが、とてもおもしろいマンガです。陰謀の影、交錯する人々の思惑、友情と裏切り……そしてなによりオノ先生の描く制服は圧倒的にかっこよく、また不思議な食べものたちもとてもおいしそうで、全方位的に楽しめる完璧な作品に仕上がっています。

 『雪女幻想 みちゆき篇』(祥伝社)で巧みなストーリーテリングの才能を見せつけた安堂維子里先生の新作『水の箱庭』1(芳文社)は今後の注目作です。熱帯魚と水槽を愛した兄は、親に反発し、家に放火したのち失踪。そんな兄の姿を追ってアクアリストになった妹と、同僚や客との交流を描く物語です。山西正則先生の『ライコネンの熱帯魚』(徳間書店)に続く熱帯魚マンガの登場。ブームの兆しでしょうか?

【8月の注目】3年ぶり『ファンタジウム』、40年ぶり『ベルばら』

(左)『夢の雫、黄金の鳥籠』5(小学館)、(右)『ファンタジウム』8(講談社)

 とか言いつつ、8月も残り少なくなってしまいました……。明治大学・米沢嘉博記念図書館で「『昭和元禄落語心中』と雲田はるこ」展が開催中の、雲田はるこ先生『昭和元禄落語心中』(講談社)は6巻が発売されました。今回は「居残り佐平次」の巻です。篠原千絵先生の『夢の雫、黄金の鳥籠』(小学館)は5巻になってますます絶好調。いつもタイトルを正確に思い出すことができず腐心するのですが、全女子にオススメしたい痛快歴史ロマンです。ほか、市川春子先生『宝石の国』3(講談社)、高野苺先生『orange』3(双葉社)、渡辺カナ先生『ステラとミルフイユ』2(集英社)、村上もとか『フイチン再見!』3(小学館)などありつつ、なんと3年ぶりの最新刊となった杉本亜未先生の『ファンタジウム』8(講談社)にもぜひぜひご注目ください。あ、『ベルばら』もありますね。要するに今月も大忙しです。

小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題がほしかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって遂には仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。

最終更新:2014/08/24 21:12
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