『SP』以降のアクション俳優評を覆す、V6・岡田准一『軍師官兵衛』の悪魔的芝居の本領
失脚して僧侶となった荒木は、天下取りの魔力は、人を「化物」に変えてしまう。と、官兵衛に語る。これは信長や秀吉のことを語っているように聞こえるが、むしろ、今後の官兵衛の行く末を暗示しているのだろう。
■会話劇で発揮される岡田の演技
『軍師官兵衛』が面白いのは、官兵衛の変化が、俳優・岡田准一のキャリアとどこか重なって見えるところだ。今ではアクション俳優としての側面が大きくフィーチャーされることの多い岡田准一だが、初期の代表作は、なんといっても、木更津で暮らす余命半年の青年・ぶっさんを演じた『木更津キャッツアイ』(TBS系)だろう。
脚本家・宮藤官九郎の初期代表作にして、笑える難病モノという異色の青春ドラマだったが、仲間同士でいる時は明るくはっちゃけるぶっさんが時折見せるナイーブな影のある表情が印象的で、V6のアイドルではない「俳優・岡田准一」を最初に強く意識した作品だった。その後、『タイガー&ドラゴン』(同)などの作品に出演し、俳優としてのキャリアを着実に積み重ねていくが、大きな転機となったのがテロリストと戦うSPたちの姿を描いた『SP 警視庁警備部警護課第四係』(フジテレビ系)だ。岡田は特殊な超感覚を備えたSPの井上薫を演じ、本格的なアクションを披露。殺陣の構成やアクションの指導にも立ち会ったという。
以降、岡田は『図書館戦争』等のアクションのある映画に積極的に参加するようになり、テレビドラマからはしばらく離れていた。岡田は、カリ、ジークンドー、USA修斗といった格闘技のインストラクターの資格を持っており、新作映画『蜩ノ記』では居合(抜刀術)も披露している。ストイックな岡田が自身の演技を高めるために格闘技や剣術にのめり込む姿には頭が下がるのだが、普通のドラマで見せるナイーブで厚みのある演技が好きだった身としては、どこか手段と目的が逆転しているのではないかと懸念していた。
『軍師官兵衛』も当初は、「馬に乗れる」といったアクション俳優としての側面が大きく注目されていた。しかし、現在の官兵衛から漂う悪魔的な迫力を見ていると、岡田准一の魅力は、会話劇の中で複雑な心理を演じた時にこそ、その本領を発揮するのだ。と、あらためて証明されたように思う。
(成馬零一)