カルチャー
南綾子インタビュー

「一生セックスなしでも3日泣くだけ」官能を描く作家・南綾子、その意外なコンプレックス

2014/08/24 19:00

――セックス描写はどうでしょう。体調が悪い紗江に対して、不倫相手の長島が言う「ちんちん入れたら治るかもよ」が、なんとも的外れで衝撃的でした(笑)。南さんにとって、別にセックスが男とのゴールではないんだなと思いました。

 そうですね、私はセックスがゴールではないと思うし、男性とはセックスしなくても一緒に寝ていられる関係になりたいと思います。「しない」という選択肢が取れる関係が理想ですね。ただ、セックス描写では、普段それほどセックスのことを考えているわけではないという普通の女性が、ふとボルテージの上がる瞬間を書きたいと思っています。男性向けの官能小説では、女は四六時中発情しているみたいな書かれ方をされますけど、そんなことってあり得ないでしょう。普段はいろんなことに時間を取られて疲れている女の人が、パッとスイッチが入るあの感じを、私は書きたいです。

『密やかな口づけ』(幻冬舎文庫)

――セックスシーンが、リアリティある淡々とした描写である一方、紗江はよく知りもしない燕君を家に呼んだり、ご飯を食べさせてあげたりと、非常に積極的です。南さんの作品では、セックスをするきっかけを作るのは女性の場合が多いですよね。

 私は男女関係だと流されちゃうタイプなので、そこにはもしかしたら私の願望が込められているかも。私は、私生活で男の人に「お前」って呼ばれることはないんですけど、小説の中ではしょっちゅう女の人を「お前」と呼ばせています。つい癖で書いちゃうんですけど、私は男の人に呼び捨てにされることもないので、もしかしたら願望なのかもしれませんね。でも「お前」と呼ばれてみたいというのも、普通の恋愛の延長上にある願望かなと思います。

――先ほどから、「普通」という言葉がよく出ていますが、南さんにとって「普通」の恋愛とは?

 「20代の時にずっと彼氏がいない」とか、「30過ぎても処女」とか、そういうのではないということです。思春期を経て年齢を重ねながら、恋愛経験も重ねているというのが「普通」と感じます。そういえば昔、「官能小説を書く女の人って、全然経験のない人か、ヤリまくってる人のどちらか。南さんみたいに、普通に何人かと付き合ってセックスをしているような人はまれ」なんて言われましたね。私は性的な人間ではないんです。「性欲がない」とは言いませんけど、一生セックスできないといわれても、3日くらい泣いて、それだけだと思います。

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