コラム
[連載]悪女の履歴書

“理想の子育て”と評された母親はなぜ“鬼母”に――「大阪2児放置・餓死事件」

2014/08/09 19:00

■ネグレクトの母親、逃げる父親

 早枝は三重県四日市市に3人姉妹の長女として生まれた。小学1年のとき、両親が離婚し早枝と2人の妹は父親に引き取られることになるが、それ以前から、早枝は母親から育児放棄されていた。6歳のとき、母親は3人の子どもを連れて家を出た。夫ではない男性と親密になったからだ。母子4人の暮らしが始まるとほどなく、母親は子どもたちを置いて朝まで帰ってこないといったネグレクトが始まる。その状況を知った父親が子どもたちを引き取り、正式に離婚した。

 そこから今度は父子4人の生活が始まったが、ここでも早枝は決して幸せではなかった。父親は監督業に忙しく、そして早枝が小学3年のときに再婚した。相手の女性には1人の子どもがいたが、しかし後妻は実子と早枝たちをあからさまに差別した。そして3年ほどあとに父親は再び離婚するのだ。

 めまぐるしく変わる環境。そして周囲の大人に振り回される幼い早枝は孤独でもあった。離婚後、父親はラグビーに一層熱心になり、家にいることは少なかった。長女として妹の面倒をよく見たという早枝。しばらく後、実母とも再会を果たしたが、実母は精神的に不安定で、小学生の娘に依存することさえあったという。中学2年の頃から早枝は荒れ始める。夜遊びをして、学校も不登校気味になり、家出も繰り返した。必ず父親が迎えにきたが、しかし父親は娘の非行に対し一方的に学校を責め、家庭を顧みることはなかったという。

 娘の非行に手を焼いた父親は、知人に娘を託し東京の専修学校へ早枝を進学させることで“娘から逃げた”。知人宅の家人に温かくされた早枝は、この時期比較的落ちついてはいたが、それでも一定の期間が過ぎると逃げ出すように家出を繰り返したという。

 そして卒業後は地元に帰りの日本料理店に就職した。その店で大学生と知り合い19歳でデキ婚。すぐに第2子もできた。これが後に犠牲となる2人の子どもである。意外なことに当初、夫婦仲は良く、子育ては順調だった。行政の育児支援も受け、1日中子どもたちと一緒に過ごした。夫の両親も近くにいて、若い夫婦をサポートした。嫁姑関係も良好だった。周囲の人たちから「理想の子育て」と言われたのはこの頃のことだ。早枝もこう振り返っている。「当時は育児の悩みなど、まったくありませんでした」(講談社「週刊現代」)。

 決して恵まれなかった早枝が、やっと幸せを掴んだ。普通に考えればそんな幸せの絶頂にあるはずの早枝だったが、第2子出産後から変化が現れる。行動がおかしくなり、別の男性と浮気した。それだけでなく、消費者金融から借金もしていた。決して夫婦仲が悪くなったわけでもないが、なぜか早枝は幸せから“逃避”するような行動を取ってしまうのだ。当然若い夫婦に亀裂が走り、2人は離婚。09年5月、早枝は2歳と生後8カ月の子どもを連れて家を出た。

 温かい家庭を夢見ながら、しかし一定の安定期が過ぎると出奔してしまう――。幼い頃から嫌なことがあると家出を繰り返した早枝だったが、結婚生活でも同じことをしてしまった。その結果、20歳そこそこで幼児を抱えたシングルとなった早枝。しかも慰謝料も養育費もなく、そして仕事もない。自分の浮気や借金という離婚原因から、早枝は周囲からも突き放され、何の援助も得ることはなかった。

後編につづく

最終更新:2019/05/21 18:52
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