実母の介護を撮り続ける娘・関口監督――認知症の心を描く『毎日がアルツハイマー2』の福音
■母に拒絶された妹、家族との関わり方
ところで、『毎アル1』では二階に住んでいる妹一家が紹介されながらも、妹さんがほとんど登場しない。実は宏子さん、認知症を発症して以来、妹さんを拒絶するようになったのだという。
「昔から妄想に逃げていた私と違って(笑)、妹は良妻賢母だった母に反抗していたんです。認知症になる前には普通の親子関係だと思っていたのですが、母は、娘2人を平等に思うという建前がなくなったんでしょうね」
介護のため帰国を決意した関口監督に、当時10歳だった息子・先人(さきと)君は「なんでお母さんばかりが介護をしないといけないの? おばちゃんだっているのに!」と言ったという。
「でも、その2年後、先人は『おばちゃんは介護に向かないよね』と。妹の性格は母を仕切ってしまい、母に残っている能力まで削いでしまう。息子にもそれがわかったんですね。介護は合う人がやればいい。そのかわり妹は姪を送り込んでくれてサポートするという“プランB”を実行してくれています。とはいっても、母に拒絶されたことで妹自身は傷ついていると思いますよ。彼女がこれからの人生で母のことをどう理解し、受け入れるのか、これは妹が折り合いをつけて行かなければならない課題だと思います。“老い”とは、そういう意味では、哲学的な問いなんです」
母娘の関係って難しいですよね。そう言いながら、『毎アル3』に向けて宏子さんや自分自身、家族を、そして認知症介護のこれからを見据えているに違いない。何年か先、また宏子さんと会えるのを楽しみに待つとしよう。
(取材・文/坂口鈴香)
※お泊まりデイサービス:日帰りで入浴や食事などの介護を受けるデイサービス施設で提供される宿泊サービス。
『毎日がアルツハイマー2』
抱腹絶倒の介護生活もすでに4年。「毎アル」な母・ひろこさんの閉じこもり生活に少しずつ変化が! デイサービスに通えるようになり、あんなに嫌がっていた洗髪をし、娘(=関口監督)と一緒に外出もする。その姿は、なんとも幸せそうで“いい感じ”。しかし、調子が悪い日は、感情の起伏が激しく、突然怒りがこみ上げたり、相変わらず1日中ベッドの上ということも。そんな母との生活の中で「パーソン・センタード・ケア(P.C.C=認知症の本人を尊重するケア)」という言葉に出会った関口監督は、自ら認知症介護最先端のイギリスへ飛びます。認知症の人を中心に考え、その人柄、人生、心理状態を探り、一人ひとりに適切なケアを導き出す「P.C.C」が教えてくれる認知症ケアにとって本当に大切なこととは――。
・東京・ポレポレ東中野、神奈川・横浜ニューテアトルほか全国順次ロードショー
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