カルチャー
『毎日がアルツハイマー2』トークショー&監督インタビュー

実母の介護を撮り続ける娘・関口監督――認知症の心を描く『毎日がアルツハイマー2』の福音

2014/08/02 19:00
(C)2014 NY GALS FILMS

■関口監督インタビュー「29年離れて暮らし、母娘関係はべったりではなかった」

 宏子さんの変化でわかるように、認知症はほかの病気と違い、本人にも自覚できる初期がつらい病気だ。

「それなのに、医者はやれ『歩きなさい』『薬を飲んで進行を遅らせましょう』と言う。初期に閉じこもっていた母を歩かせるなんてできなかった。私にとっても母にとっても大変な時期を長引かせるだけなのにと思いましたね。何よりもそんな、私の疑問に町医者は答えてくれないんです。だから自分で勉強しようと思った。一体、認知症って何? という疑問が、P.C.C.につながっていったんですよ」

 認知症という病名は同じでも、一人ひとりの認知機能や健康状態、性格、人生歴、周囲の人間関係は異なり、その人らしさを尊重するケアが必要であるというのがP.C.C.だ。認知症の人の「脳」だけを見るのではなく、「心」を理解しようとするのだ。

「私は、入浴を拒否する母のためには訪問看護が必要だと判断し、『初期の認知症に訪問看護は必要ない』と言う医者を説得して訪問看護指示書を書いてもらいました。定石どおりの“介護プランA”だけでなく、“プランB”を示すことができるかどうか。P.C.C.を実践しようとすると、介護者の引き出しがどれだけあるか、いわば“人間力”が問われるんです」

 『毎アル2』公開前、関口監督は右股関節全置換手術のために1カ月ほど入院している。その間、宏子さんはお泊まりデイサービス(※)を利用し、監督が退院した後もさらに1週間お泊まりを継続してもらったという。「母は『私が邪魔なんだ』と“激昂仮面”になりましたが、『申し訳ないけど、そう』と素直に認めました。認めること、助けを求めることは難しいけれど、それができればつらいと思っている介護が変わります」。手術後、要支援となった娘を助けようと、宏子さんは洗い物をしてくれるようになったという。再び「母」に戻ったように。

「介護がつらくなってしまうのは、自分が1人で全部背負ってしまうから。できないことはできないとさらけ出すことが必要なんです」

 それでも、今や宏子さんとの関係は母娘の立場が逆転し、宏子さんが自分を頼りきっている状態が怖くもあると言う。重くなった宏子さんの命への責任。それは介護する側の気持ち1つで左右される命でもある。虐待をするのも、家族が大半だ。関口監督の“怖さ”も、そこに起因しているのではないだろうか。

 カメラを通して母を見つめ、「頭の半分は監督の私がいてどんな画(え)が必要なのかを常に醒めて考えている。残りの頭の半分には、娘の私がいて、母をどうやって笑わせようか、気持ちを楽にしてあげようかっていつも考えています。でも世話をする部分は、ヘルパーさんや訪問看護師さんに頼っています」という監督。

「もう家族が全てを抱え込むのは無理なんです。介護には、第三者が入ることが必要。母は3年半ぶりに入浴できましたが、これも訪問看護師さんと母の間に信頼関係が成立したから。家族はできないことはできないと言っていい。だからこそこれから必要なのは、“お世話”ではない認知症介護のできるプロを育てることだと思います」

 P.C.C.を学んだ認知症介護のプロを育てる――それは、家族は「ギブアップしていいんだよ」というメッセージとともに込められた関口監督の意志であり、監督が感じている“怖さ”への答えだ。そして、やがて認知症後期に入る宏子さんのためでもある。

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