カルチャー
『毎日がアルツハイマー2』トークショー&監督インタビュー

実母の介護を撮り続ける娘・関口監督――認知症の心を描く『毎日がアルツハイマー2』の福音

2014/08/02 19:00

 アルツハイマー型認知症の実母、宏子さんを関口祐加監督自らカメラに収め、大きな反響を呼んだ映画『毎日がアルツハイマー』(以下、『毎アル1』)公開から2年。続編となる『毎日がアルツハイマー2~関口監督、イギリスへ行く編』(以下、『毎アル2』)が7月19日からポレポレ東中野で公開されている。公開中、毎週末にはゲストを迎えてトークイベントも開催。27日は映画『ミツバチの羽音と地球の回転』の鎌仲ひとみ監督と、関口監督とのトークセッションが行われ、太平洋戦争とフクシマ、介護に共通する日本人の姿から母娘関係まで、痛快でスリリングなやり取りが繰り広げられた。トークセッション後、関口監督に話を聞いた。

 冒頭からビロウな話で恐縮だが、関口監督によると『毎アル2』は「ウンコの話」なのだそうだ。『毎アル2』は副題の通り、「認知症とは何か」「認知症のケアはどうあるべきか」という探究心にかきたてられた監督が、認知症介護最先端のイギリスに飛び「パーソン・センタード・ケア(P.C.C.)と呼ばれる認知症の本人を尊重するケアを学ぶ。介護に排泄問題は避けては通れない。関口監督は現地の介護職に交じってP.C.C.を学ぶ中で、「廊下で便失禁をしてしまった人には、本人の自尊心を傷つけないために『こんなところに犬がウンコしたのね』」という言い方を教わった。

 そしてイギリスから10日ぶりに帰宅した関口監督を待っていたのは――便で汚れた母の下着。それも洗面器に!「あら、こんなところに犬が……とはまだ言えないなあ」という監督のナレーションは最高だ。これぞ『毎アル2』の真骨頂。「映画監督として探究心を追求すると、そういう事象を呼び寄せるのよね」とは、トークショーでの鎌仲監督の共感と実感のこもった言葉だが、あまりのグッドタイミングに、映画監督としてはニンマリというところだったのかもしれない。介護者としての関口監督には申し訳ないが。

 宏子さんは、2010年にアルツハイマー型認知症であると診断されている。『毎アル1』では、診断以前より、喜怒哀楽がはっきり表れるようになった宏子さんを映し出す。それまでの「いい嫁、いい妻、いい母」を脱ぎ捨てた宏子さんは、驚くほど魅力的だ。それと同時に、関口監督が宏子さんのことを大切に思う気持ちが伝わってくる。宏子さんファンから、続編を切望する声が多く寄せられたというのもうなずける。

 しかしそんな鑑賞者の思いとは反対に、宏子さんはそれまでできたことができなくなっていく自分へのいら立ちや戸惑いから、家に閉じこもってしまう。ときに激しく怒りを露わにする宏子さんを、関口監督は “激昂仮面”とユーモラスに呼んでいることをトークショーで明かした。実際、そうやって笑いにでも変えなければ、突然、怒りの矛先を向けられてしまう家族にとっては気持ちのやり場がないことだってあるのだろう。画面越しであっても、怒りが向けられると心が萎えるのだから。

 それが『毎アル2』では、宏子さんの閉じこもり生活に変化が見られるようになる。デイサービスに通えるようになり、洗髪をし、関口監督と外出もできた。認知症が中期に入り、初期の頃とは一転、気持ちが楽になったような宏子さんの姿にホッとする。「すごい幸せ。死ぬのを忘れてる」と宏子さんが笑う。コミック『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社)で、作者で息子のゆういちが「ボケるとも悪か事ばかりじゃなかかもしれん」と、まったく同じセリフをつぶやいたのを思い出した。

 宏子さんが解放されるのと時を同じくするように、『毎アル1』で繰り返された「ネバーギブアップ」というメッセージが、『毎アル2』ではまったく聞かれなくなる。「『毎アル2』は家族への応援歌なんです」と関口監督。そう、『毎アル2』のメッセージは「ギブアップしてもいいんだよ」なのだ。

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