カルチャー
『美少女展』インタビュー

なぜ美少女はもてはやされるのか? “現代の欲望投影装置”としての美少女の魅力と怖さ

2014/08/10 16:00

工藤 僕たち昭和40年代生まれの世代より上の世代には、まだ美術とサブカルチャーというジャンル分けの意識が残っていると思うのですが、今の20~30代の若い作家たちには、そういう意識はあまりないみたいですね。漫画やアニメ、ゲームで育ち、さらにはpixivやニコニコ動画といったネットコミュニケーションで作品をとりあえず発表できちゃったりするから、もはや美術やサブカルといった領域そのものが意味を持たなくなってきています。そんなものは軽々と飛び越えて表現できちゃう。

四谷シモン《Portrait d'une petite fille》 1982(昭和57)年 澁澤龍彦(龍子)氏蔵

和久井 日本画家の山口晃さんや、武者フィギュアで有名な野口哲哉さんの作品を見ていると、そう思います。今回の展覧会も、そうした流れなのでしょうか。

工藤 浮世絵をマンガやアニメのルーツとして位置づける意見はよく見受けられますよね。でも、それだと「近代」という時代がすっぽり抜け落ちちゃう。じゃあ近代の日本画や洋画は文化に対してまったく影響力はなかったのか、ということになるわけです。現代美術では「美少女」が重要なモチーフの1つとなっていますが、近代の日本画でも数多くの「少女」が描かれています。今回の『美少女の美術史』展では、浮世絵から近代絵画、そしてアニメ、漫画から現代美術までを等価に並べることで、表現の歴史の新しい解釈が可能になるのではないかと、そういう意図も込めています。

和久井 個人的には、やはり仕事柄もあって、少女マンガの展示に惹かれました。懐かしいやら目新しいやら。

工藤 先ほどから、男性の欲望の対象としての少女、つまり「消費される存在」という側面ばかりを強調してきましたが、結婚や労働までの猶予を与えられた少女は、自ら趣味を持ち、お洒落をし、少女雑誌や漫画を愛読する「消費する存在」でもありました。

和久井 確かに、自分がかつて消費される側だったという意識はあります。今や「美少女」という3つの漢字のうち「女」しか当てはまらなくなり(笑)、男性からの好奇な視線がなくなって、だいぶ生きやすくなりました。一方で、少女イメージを植え付けるマンガや雑誌を好んで消費していたところもありますね。ところで展覧会のキャッチコピーである「美少女なんて、いるわけないじゃない。」は、どういう意図なのでしょうか。

工藤 あれは、トリメガ研究所の仲間・村上さんによると『マクロスF』の映画のキャッチコピーのパクリらしいんです。基本的には、美少女というのは理念的な存在で、現実にいるとかいないとか、そういうことじゃないんだよ、という意味です。

和久井 確かに、展示はある種、象徴的な少女像が並んでいました。例えば、少女雑誌の付録だった双六が、当時の世相を端的に表していたと思います。小学校を卒業して子守したり、女中奉公したり、養蚕したり。「上がり」は嫁入り支度だし……まるで『花子とアン』。またオリジナルアニメ『女生徒』は、今風の叙情的な作りで、「メガネっ娘」という存在への愛があふれる作品でした。

工藤 ありがとうございます。開催前は、男性客が多いのかなと思っていたのですが、フタを開けてみれば7割近くが女性なのも驚きでした。

和久井 意外と、「消費する少女」からの需要が高かったということですね。個人的に、渋澤龍彦が大好きなのですが、『少女コレクション序説』の表紙になっている、四谷シモンの少女人形の実物があったのに感動しました。本日はありがとうございました。

『美少女の美術史 少女について考えるための16の事柄』公式サイト

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※応募は締め切りました

最終更新:2014/10/03 18:14
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