女子マンガ代表・雁須磨子『右足と左足のあいだ』が描く、男女の“言葉”のズレの妙味
女子マンガ研究家の小田真琴です。太洋社の「コミック発売予定一覧」によりますと、たとえば2014年6月には982点ものマンガが刊行されています。その中から一般読者が「なんかおもしろいマンガ」を探し当てるのは至難のワザ。この記事があなたの「なんかおもしろいマンガ」探しの一助になれば幸いであります。後編では6月の単行本と7月発売予定の注目作をチェックいたしましょう。
【単行本】これぞ女子マンガの真骨頂! 雁須磨子先生久々の短編集『右足と左足のあいだ』
「女子マンガ」という言葉を使うとき、なんとなく想定している作家さんが何人かいるのですが、中でも雁須磨子先生は最も代表的な作家であるように思います。なかなかに伝えづらいそのスルメイカのような味わいは、久々の短編集『右足と左足のあいだ』(祥伝社)でもますます冴え渡り、買ったその日のうちに3度も読み返してしまったほどでした。
収録された全8編で主に描かれるのは、男女のディスコミュニケーションです。交わされる言葉たちの中に潜むどうしようもないズレ。それが表題作の夫婦のようにED(勃起不全)という深刻な事態を招くこともありますし、「おそるるにたり」のように男性の(本人的には)何気ない言葉が、女性には悪意として受け取られてしまうことも多くあることでしょう。「いや君…辻さんってさあ、メガネ外すとさあ、ちょっと…」「ちょっと、こう…」「なんか…もの足んないカンジになるよね」……ガーン。ここで描かれるのは期待される少女マンガ的な理想の言葉(「メガネ外すと実はかわいいよね」)と現実とのズレでもあります。
前者においては2人が心寄せ合うことで(ラストシーンのモノローグはとても感動的!)、後者においては「メガネもカバンも気付かれないより気付いてくれた方がうれしいしね」という女性側の好意的な解釈によって、ズレは埋められていきます。その男女の営みのおかしみと哀しみを、どうぞご堪能ください。
一方、こちらはまったく女子マンガではないのですが、『田中雄一作品集 まちあわせ』(講談社)は衝撃的な1冊でした。昆虫が苦手な方は絶対に読まないでほしいのですが、そうでなければぜひともお読みいただきたい4編です。食物連鎖において人間の上位に立つ昆虫、人間よりも高度な知能を有する異人類、人の形をした人ではないなにか……この世界の「当たり前」を思いきりよくズラすことで、著者は清新で大きな生命観を提示します。市川春子先生のようでもあり、諸星大二郎先生のようでもあるその独特の世界は、一度触れたら離れがたい奇妙な魅力に満ちているのでした。