若手“優等生”俳優から脱した、三浦春馬の肉体性――『恋空』から『殺人偏差値70』へ
■優等生的イケメン俳優を脱した、三浦春馬の身体性
主演を務めた三浦春馬は、4歳の頃から児童劇団に所属し、映画『恋空』の不良少年のヒロと、映画『君に届け』の爽やか優等生の風早翔太という、ヤンキーと優等生という正反対の立場から、女子高生にとっての「王子様役」を制したことで絶大な人気を獲得した。
10代における彼のキャリアを振り返ると、与えられた役割を的確に演じてきたという意味ではイケメン俳優として完璧だったと言える。しかし、それだけに役者としては優等生すぎて、つかみどころのない不気味さを感じていた。うまく言えないが、反抗期がないまま成長した子どもを見て「大丈夫?」と心配になるような感じだ。
そういった三浦の所在のなさから生まれる「面白さ」が予期せぬ形で現れたのが、20歳の時に演じた『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ系)の柏木修二だ。修二は同僚の女教師と結婚間近で、生徒たちからは人気教師として慕われていたが、女子生徒との浮気疑惑をかけられてしまう。それをきっかけに、柏木の「優等生のまま大人になった」という危うさが露呈していき、真面目ゆえの鈍感さから、周囲の人々を無自覚に傷つけてしまう。この役柄で、受け身で生きてきた人間特有の所在のなさに触れて以降、役者としての彼に興味を持つようになったが、この優等生ゆえの悩みや葛藤というのは、三浦の中に昔から存在していたのではないかというくらい、鬼気迫っていた。
それは外見の変化にも強く現れている。『ラスト・シンデレラ』(同)では中肉中背の鍛えた体で健康的な色気を振りまいていたが、『僕のいた時間』(同)では病気で体が衰弱していく役を演じており、役に応じて肉体の見せ方を大きく変えている。本作では、神経質な学生らしく不健康に痩せたひょろ長く見える体格が印象的で、不安定な内面が台詞よりも肉体で表現されていた。
現時点では必ずしも突出した演技派というわけではないが、三浦を使えば面白い作品ができると作り手に期待させる力が、今の彼にはあるのではないかと思う。それゆえ、意欲的な作品に出る機会が増えており、その役を演じることで役者として成長していくという幸福なサイクルに入っている。視聴率こそ低かったが、本作のようなアプローチを、いつか三浦春馬主演の連ドラでも見てみたいと思う。
(成馬零壱)