カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」6月22日号

リリーの暴言と“妻にイジめられている男”のグチで、読者に内省を促す「婦人公論」

2014/06/18 21:00

 おそるおそる、しかし自分に非がないことはしっかり伝えつつ、我こそは理不尽な妻に振り回される哀れな夫であると訴える男たち。そして散々語り尽くした後、参加者の1人が「今回はこういう企画だからやったけど、男同士が集まって妻の悪口を言うなんてことはないでしょう。さっきから欠席裁判をしているようで、実は後ろめたい思いなんです」と切り出すと、ほかの2人も「私もです。いいのかな、こういうこと言って、と思いながら」「男は妻に対して最低限のリスペクトはしていますから」と同調を始めるではありませんか。妻がイラついて仕方ないのはアンタたちのそういうとこだよ! 「狭い家庭の中で独裁者かもしれないけど、結局私の妻は、家にいて、自己実現や自分の居場所の確保ができないという焦燥感があるのかもしれない」と、“妻に対して憐憫の情を抱きながら甘んじて恐妻キャラを引き受けています~”みたいなところが知らず知らずのうちに態度に滲み出ちゃってるんじゃないですかね。「リスペクト」ってなんだろう……。

■リリーさんが、これでもかというぐらいに男の本音を語る

 この座談会を読者に読ませてさらにイライラを増幅させるという、なんともいけずな「婦人公論」ですが、なぜだか今号にはこの手の「お父さんだけが悪いんじゃない」企画が多く見られます。まずはいつもの“笑ってゆるしてスピリチュアルだから”路線の江原啓之の連載「家族の正しい関係」。今回のテーマはズバリ「鈍感夫とのつきあい方」です。夫の言動によるストレスで病気になる「夫源病」について説く江原。「どうしようもない鈍感夫がいることは十分承知したうえで、あえて私は、夫ではなく妻が変わることを促したいのです」。この手の問題における“あるある”なのでしょうか、「人は変えられないけど自分は変えられる」というのは。「冷静な気持ちになり、夫に対する感謝の数を数えてみてください」「『夫源病』だと感じている人こそ、意識して夫を大切にしてみましょう」と、それができたらそもそも「婦人公論」を読んでないっつーの!

 “右の頬を打たれたら左の頬と有り金を全部出しなさい”という江原のスピリチュアル説教に続きましては、“男YOUさん”の異名を持つ(※筆者命名)リリー・フランキーのインタビュー「お父さんたちの寂しさ、切なさ、漂流感が胸に迫ります」。ドラマ『55歳からのハローライフ』(NHK)で早期退職した後、キャンピングカーで妻と2人全国を巡ろうと夢見るお父さんを演じるリリー。自身は独身ですが「演じていて、主人公の寂しさ、切なさ、メインストリームを歩んできた人の持つ漂流感みたいなものが胸に迫ってきました」と言います。そしていつのまにかその思いは“アラフィフ女性dis”へ。「『夫を捨ててしまいたい』なんて慎みがなさ過ぎです」「今の50代は大人にもなれていない人が多くて、自分たちの会合を平気で『女子会』などと呼ぶ。(中略)『女子会』じゃなくて『婦人会』でしょ。竹槍で空をつついたりするような会」「つまらないことで攻撃的になる女性が増えている」……。きわめつけが「男って、女性が考えているよりずっともろいんですよ。だから、性欲が高まってセックスしたいと思ったら、気を使わないと。殊勝にしていた方がいい時もあると思います」ですってよ奥さん! イイ子にしてたらセックスしてあげるよ~って、おぬしの股間はナンボのもんじゃい!

 前号ではシスター礼賛にオバタリアン侮辱、今号は頑張れお父さんからのアラフィフ女性批判……突如読者に内省を促し始めた「婦人公論」。まさか今月は父の日があったからじゃないですよね。奇しくも同号「婦人公論アーカイブ」に掲載されていた林芙美子の手記「男を嗤う」での名文「男からひろった私の哲学は、男はもつまじきもの、真実はつくすまじき事」のファイナルアンサー感たるや。
(西澤千央)

最終更新:2014/06/18 21:00
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