「ダメ男」「野獣」といった偏見を外し、フラットに「男」を見つめ直せる4冊
『ワイフ・プロジェクト』(グラム・シムシオン著、小川 敏子翻訳、講談社)
一方、「針の穴くらいのストライクゾーン」にいるはずの“完全な妻”を求めて暴走する男性が登場する小説が『ワイフ・プロジェクト』。将来を期待される若い大学教授、顔もスタイルもよく、ジムに通い、料理上手……という好条件を補って余りある非社交性ぶりで、これまで女性と付き合うこともなかった主人公・ドンが、ある出来事をきっかけに“完全な妻”を探し始めるラブコメディーだ。
人一倍不器用で、他人に自分を乱されることが苦手。周りの空気が読めずに、外から見ればズレた言動を繰り返す。そんな主人公が、自覚のないまま周囲を振り回すさまは、まずコメディーとして秀逸だ。ボケ続けていることに気づかないドンに、読者は思わずツッコミを入れながら読み進めることになる。
王道のラブストーリーではあるが、自分の世界をかたくなに守っていたドンが、その枠を自ら壊して他者とコミットしようと奮闘する姿に、ついつい肩入れしたくなってくる。そして、長年慣れた生活環境に安住する楽さを自覚する人なら、自分の中にも、良くも悪くも小さなドンがいることに気づかされるだろう。恋愛によって他者という未知のエリアに踏み込んでいく彼の冒険が、どんな結末に繋がるのか、ぜひ見届けてほしい。
【新書】
『男子の貞操』(坂爪真吾、ちくま新書)
他者とのコミュニケーションが著しく苦手で、女性と付き合わず39歳まで童貞を貫いてきた『ワイフ・プロジェクト』のドン。若年世代の童貞・処女率が高まる傾向にある日本で、彼はある意味、現代的なキャラクターでもある。
そんな日本の若者世代の現状を、「冷静にセックスのリスクとコストを計算できるようになったため、若者がセックスに一定の距離を置くようになったことの反映」と分析しているのが『男子の貞操』の著者、坂爪氏。風俗業界に広く取材し、身体障害者向けの射精介助サービスを運営する同氏は、本書で、多くの女性も持ちがちな“「男の性」への前提”に疑問を呈している。
とかく「男性の性欲は本能的・衝動的なものであり、制御が難しい」という男性観が生まれた日本の事情や、その前提に基づいたポルノの大量供給に、若い世代が食傷しつつある不毛な現状を分析。「男性=野獣」幻想から脱却するメリットと方法論を提案している。
セックステクニック指南ではなく、妊活のためでもない、普通の人が幸福にセックスと出会うためのゼロからの具体論。基本的に男性に向けて書かれてはいるが、女性が読んでも、知らず知らずにかけていた性への色眼鏡を外し、捉え直すことができる貴重な一冊だ。
(保田夏子)