「ダメ男」「野獣」といった偏見を外し、フラットに「男」を見つめ直せる4冊
――本屋にあまたと並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!
【単行本】
『まるでダメ男じゃん!』(豊崎由美、筑摩書房)
ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』は“橋田壽賀子ドラマもまっ青なダメ男見本市”、森鴎外の『舞姫』の主人公は“ガリ勉型世間知レベル0のダメ男”――!? 『まるでダメ男じゃん!』は、「ダメ男小説が大好物」という豊崎氏による、「愛すべきダメ男」のショーケースとしての名作ブックレビュー集。古今東西の小説を徹底的にダメ男鑑賞を主軸にすることで、「気軽に」というには気が引ける名作たちが身近に親しめる作品として見えてくる。
本書で取り上げられる「愛すべきダメ男」たちは、もし実際に目の前にいたら逃げ出したくなるような、困ったちゃんがほとんどだ。けれども、スケールのでかい(時に小さい)ダメっぷりと同時に、彼らのおかしみや切なさが伝わってくるのは、豊崎氏のレビューがそれぞれの作品への深い理解に裏打ちされているからだろう。
単純に「ダメ男」と断罪するわけでもなく、「ダメなところが素敵!」と持ち上げているわけでもない。美点と欠点が並列する絶妙な紹介のされ方で、名作の中の男たちはより重層的な印象を残す。小説の読み方はもちろん男性観も深まる、二重においしい本なのだ。
『おとこのるつぼ』(群ようこ、新潮社)
現実ではまず出会わない、ぎゅっと濃縮された男キャラを取りそろえた『まるでダメ男じゃん!』とは対照的に、毎日でも出会えそうな身近な男たちを題材にしたエッセイが『おとこのるつぼ』だ。
なぜ男性は、必要以上にハゲを気にする人が多いのか、どうして明らかに仕事ができなさそうに見える男が上司に気に入られるのか……? 「ダメ男」には至らない、けれどもどうもモヤっと引っ掛かる男の生態に、群氏が率直に突っ込みを入れていく。
しつこいセクハラ男、男を見下す男など、ちょっと嫌な男性についてつづる時も、彼の生活環境まで勝手に妄想する群氏の語り口は、ユーモアに満ちている。決して不快なままで終わらせず、読者の溜飲を下げつつもどこかで笑いを差しこむ著者の視点は、実際に苦手な男に面した時の距離の取り方として参考になる。
そして本作の中で、特に著者の温かい視点が印象的なエピソードが、婚活を成功させた知人男性について語る「無欲の勝利」。男性の成功を語った後で、「自分の理想にいちばん合う人をと、針の穴くらいのストライクゾーンで、血眼で相手を探す人は、巡り合うのがとても難しそうだ」という著者の所感は、男性への意見というより、「昔より完璧を求め過ぎている」と群氏が心配する、女性に向けての忠言とも読める。