『ジャニーズJr.NO.1決定戦』に見た、“完全な出来レース”の残酷さと事務所の焦り
「アイドル」としての素材はピカイチながら、精神面もスキルもまだまだ幼く、一般知名度もない関西ジャニーズJr.の永瀬廉。世間にお披露目するまでにビジュアルが頂点に達してしまいそうな急速なイケメン化は、脅威を感じるほどで、「冷凍保存しておきたい」という記事を以前書いたことがある(既報)。
だが、そんな永瀬廉をジャニーズ事務所はやはり放ってはおかなかった。今回ツッコませていただくのは、「大人の残酷さ」が際立った『ファイト!YOUたち~ジャニーズJr.NO.1決定戦』(5月17日放送/TBS)。
『ジャニーズJr.NO.1決定戦』などと派手に銘打っているにもかかわらず、番宣はまったくされず、司会も知名度に不安があるA.B.C-Zで、さらに誰も見ていなさそうな土曜午後3時にひっそり放送されることを考えると、制作サイドの意図は見え見え。だからこそ、最初から「安いバラエティ」くらいの内容だと思っておく必要があった。『ザ少年倶楽部』(NHK BS)において、時々開催されるお遊び企画の「○○選手権」程度に思えば問題なかったのだろう。だが、真剣に見ていたファンは多く、「完全な出来レース」に見える粗い作りには一部で批判の声が上がっていた。
「体育館に集められたジャニーズJr.100人に、ダンス、体力、トーク力、歌唱の4つのステージに挑んでもらう」ということだったが、Jr.たちが会場にやって来るシーンで真っ先に映し出される目を引くキレイな子が、永瀬廉である。この時点で「あ、この子が優勝するんだな」と感じた視聴者も多かったはずだ。
にもかかわらず、わざわざ「ダンス」「体力」「トーク力」「歌唱」の順番で、部門別に審査し、合格者を出していく。正直、永瀬の場合、スキル的にはどれもこれも稚拙だが、「ダンス」では「表情」などが評価対象となったり、「体力」も「30メートル走を全力でやった後、もう一度走って『自分の限界を超えられた人』」なんて基準になっていたりと、随所に選考への「言い訳」が用意されていた。
各部門で早々に合格した者には審査員の講評があったが、永瀬は各部門の残る数人に紛れ込み続ける形で、講評を受けないまま決勝枠に進出。最終選考は、永瀬にとって唯一「まあまあ」レベルの「歌唱」(声は良い)だったというのも、用意された道筋に見えて仕方なかった。しかし、その歌唱もブラジル系ハーフの岡本カウアンの方が明らかにうまかったわけで、永瀬が選ばれるのは釈然としない結末である。
さらに可哀想だったのは、優勝者発表の時の永瀬のリアクションだ。一瞬固まり、「いやいやいや~」と少しおどけてみせたが、これは『まいど!ジャーニィ~』(BSフジ)などで見られる「すぐに“素”になり、鼻にシワを寄せて爆笑したり、キョドッたり、人見知り感を出したり、混乱してしまったり」する日頃の永瀬からは、考えられないリアクションである。それだけに、ネット上では「演技へたすぎ」と笑われてもいたが、それを上手にできてしまう子じゃないところが、おそらく大きな魅力の1つでもあるだろう。
このところ『ザ少年倶楽部』でも永瀬のソロの披露があったり、『まいど!ジャーニィ~』でもアイドル誌でも、平野紫耀との「しょうれん」売りが進んでいたり、いよいよ本格的に売り出そうという意図は見えていたが……。
なぜわざわざこんな番組を作ってしまったのか。おそらくダンスやアクロバットができる平野と違い、まだ何もない永瀬に、デビューに向けて何かしらの「箔」をつけようということだったのだろう。だが、やり方が見え見えすぎて、残酷すぎる。そもそも、一般の目に触れるようになれば、放っておいても人気が出るルックスの持ち主であり、性格も天然で真面目で、無垢な面が母性本能をくすぐる逸材だ。加えて、全国を転々としてきた「美少年の転校生」というフィクションのような経歴も輝かしい。
本来、「アイドル」は輝いてさえいればスキルなど必要ないということは、トシちゃん、マッチ、光GENJI・諸星和己などの時代には確信されていたことだった。近年はジャニー氏の「ゴリ押し」物件や事務所のプッシュがことごとく苦戦しているだけに、売り方に焦りが見える気がする。
せっかくのキラキラの素材を、大人の事情や焦りによって傷つけてしまわないか、大いに不安をあおられる番組だった。
(田幸和歌子)