女子マンガ界で「リケジョ」は根強し! 研究員女子、生物学に海洋動物学の注目作
女子マンガ研究家の小田真琴です。太洋社の「コミック発売予定一覧」によりますと、たとえば2014年4月には954点ものマンガが刊行されています。その中から一般読者が「なんかおもしろいマンガ」を探し当てるのは至難のワザ。この記事があなたの「なんかおもしろいマンガ」探しの一助になれば幸いであります。まずは4月の話題と女性向けマンガ各誌をチェックいたしましょう。
[話題]いろんなことがあったけど「リケジョ」マンガはまだまだ熱い
突然炎のごとく盛り上がり、あっという間に盛り下がって、「リケジョ」ブームは地に墜ちるどころか地獄にまで到達しそうな勢いですが、それでもなお「わたしのことは嫌いになっても、STAP細胞のことは嫌いにならないでください!」などと今にも叫び出しそうな涙目の小保方さんを3~5割の人間が支持しているらしいと耳にするにつけても、ああ、橋下徹の言うところの「ふわっとした民意」とはこうやって醸成されゆくのだな……と憂鬱に思うばかりであります。
それはさておき女子マンガにおいて「リケジョ」はいまだ衰えぬトレンドであります。大久保ヒロミ先生の『人は見た目が100パーセント』(講談社「BE・LOVE」連載中)は、世俗に疎い某企業の研究員女子3人(自称「女子モドキ」)が、日々勤務時間後にその科学的リテラシーでもって、はやりのファッションや美容にアプローチするというショートギャグマンガです。これがめっぽう面白くて、例えば「BE・LOVE」9号では3人が高級下着に挑戦しました。現状、ぽっちゃり体型の佐藤さんは上980円、下380円の不揃い下着で、しかも擦り切れるまで着古したもの。バブルの残党であり唯一の既婚者である前田さんは、カップ付きキャミに、引き締め効果があると言われている気休めパンツ。クソ真面目なメガネ女子、前田さんは、グレーで地味ながら上下そろっていて、おや、意外としっかりしているのでは? 実はそれにはワケがありまして……というお話。今回も笑わせていただきました。今から単行本が楽しみです。
『本屋の森のあかり』(講談社)の磯谷友紀先生の新連載『海とドリトル』(講談社「Kiss」連載中)は、大学の海洋動物学/動物行動学の研究室が舞台。まだまだ序盤ではありますが、クジラに付けたロガーの電波を受信するべく富士山に登るメガネ男子や、夜明けの堤防で釣りをしながら別れた妻を思う准教授の描写はとても印象的。『本屋の~』に負けず劣らずメガネ男子成分は多めで、恋愛要素が盛り上がる今後に期待が膨らみます。
ほか、先月ちらっとご紹介した町麻衣先生の『アヤメくんののんびり肉食日誌』(祥伝社)も生物学の研究室のお話。こうした作品が続々と登場しつつあるということは、いまだに女性が少ない理系の世界ではありますが、それでも以前に比べれば身近になりつつあることの証左でありましょう。
ちなみに講談社の作品が多いのは理系女子応援サービス「Rikejo」をやっているから……というわけでは決してなく、例えば集英社あたりと比べますと、講談社の女性向けマンガに登場する女性キャラは、職業のバリエーションが豊富なんですよね。「BE・LOVE」には教師、動物園の飼育係、料理研究家、法医学者、保育士、おばあちゃん……「Kiss」には編集者、服飾デザイナー、質屋、モデル、マンガ家、契約結婚妻……と多種多様。講談社のマンガのこうした多様性がとても好きです。
[雑誌]今年最大の話題作『高台家の人々』が絶好調
「YOU」5月号(集英社)
とか言いながら、実は今わたしが一番楽しみにしているのは「YOU」(集英社)です。主力の森本梢子先生『高台家の人々』と中原アヤ先生の『ダメな私に恋してください』が絶好調。不定期連載ながら萩尾望都先生の『王妃マルゴ』や山下和美先生の『数寄です!』もありつつ、6月号からはきら先生ともんでんあきこ先生の新連載も始まります。軽めのエッセイコミックまでも二ノ宮知子先生(『おにぎり通信~ダメママ日記~』)や鴨居まさね先生(『買ってためそう』)で固めるという隙のない布陣。あらゆる点において楽しみな宮川匡代先生の『ONE -愛になりたい-』の続編『ONE Final -未来のエスキース-』なんかもありまして、さすがの層の厚さです。
中でも、人の心が読める高台家のテレパス3兄弟と、突飛な妄想(これが笑えます)ばかりしている冴えないOL、木絵との交流を描いたサイココメディ『高台家の人々』は、今年ブレイク必至の注目作です。すでに口コミで単行本の売れ行きは伸びつつあるようですが、ここ数カ月の連載を読んでいても本当に面白い! おそらく5月23日に発売される第2巻に収録されるであろう、高台家の祖父母の恋物語には、笑いながらも最後にはほろりとさせられました。テレビ朝日系の金曜深夜枠あたりでテレビドラマ化してはいかがでしょうか?
小田真琴(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題がほしかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって遂には仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。