カルチャー
宋美玄氏×深澤真紀氏特別対談(後編)

“女性誌の呪い”を回避するための、「女子の時代」の情報リテラシー

2014/04/15 11:45
「自分らしいお産は勝手ににじみ出るもの」と出産のファッション化に警鐘を鳴らす宋氏

(前編はこちら)

■まったく面白くないところに正しい情報がある

深澤真紀氏(以下、深澤) 最近芸能人が離婚発表をすると、「彼と結婚したことには、意味がありました」とか、すごくきれいな言葉で説明するでしょう? いついかなる時でも「輝く私」「どんなことでも糧にする私」が、ここ10~20年ぐらいの流行なんですが、一般の人もそれを内面化してきている。「彼と結婚して、本当によかった」とか言うから、「じゃあ、そのまま結婚しとけばいいじゃん」っていうね(笑)。言語能力が発達しすぎちゃって、「一億総セミプロライター」みたいになってますよね。

――SNSが普及して「発信する側」になったことで、“自分を見せる”楽しさを覚えた人が多いのでしょうが、それは本当に一般の人にまで落とす必要があるのか、という疑問はあります。

宋美玄氏(以下、宋) 患者の中には、「友達はFacebookに旦那や子どもの写真をいっぱい載せて幸せそうで、私は本当に孤独なんです」と泣きだす人が結構いるんですよ。「あれは見せたい自分を見せているだけだから。こういったことを見せなきゃいけないってことは、それはそれでつらいかもよ」と、見せられたものをそのまま受け取ってはダメという話をするんですけどね。

深澤 SNSをツッコみながら読めたら、本当は面白いんですけどね。意図を読むというか。女性誌だろうが、ワイドショーだろうが、SNSだろうが、それを丸のみにするんじゃなくて、心の中にツッコミ星人は絶対必要で、「あら?」と思いながら読むのが大事。(手元にあった女性誌の「玉の輿より未婚の母」という記事を見て)こういうのを無責任に煽らないでほしいですよね。「玉の輿」と「未婚の母」なんて、ゼロかイチかで選ぶもんじゃない。間が大事でしょ。

――でも「間」は読まれないんですよね。

深澤 そうなんです。女性誌が謳うことも女の人の夢も極端だし、私たちが言う女性の生き方も極端なの。落としどころは、面白くもなんともないところにあるんですよ。

宋 本当にそう! 女性誌のセックス特集の取材でも、「本当に気持ちいいセックスは地味なセックス」と伝えると、「そんなんじゃ記事になりません。もっと面白いテクニックを!」と言われるんです。

深澤 「本当のことは面白くない」というのが、向上心あふれる真面目な“女子”たちにとっては不満なのよ。

――女性誌はセックス特集、母になる特集には力を入れるのに、「産まなくていい」は絶対に言わないですよね。

宋 だって「母になるプロジェクト」「人生最高のプロジェクト」と謳うところもあるんですから。極端なことしか記事にならないのと一緒で、某女性誌の編集長によると、読者は「ハリウッドスターが50歳でも出産できる」という記事が読みたいんですって。

深澤 「産まなくていい」はコンテンツにならないもの。私が褒め言葉で「草食男子」って名付けたのにあんなに怒られたのは、やっぱ消費にならないから。これが「オヤジギャル」ならいいですよ、消費するから。流行するものは、なんらかのビジネスや消費を生めばいいんだけど、結びつかないものを今の社会で強く言っていくのは難しいですね。

――でも、女性が過剰に「頑張らなきゃ」「自分をいい方向に導かなきゃ」と思い込むのは不幸です。

宋 よく「自分らしいお産」とかいうけど、自分らしいお産なんて考えるものじゃなくて、にじみ出るものだから! コントロールできるものじゃない。なんでもコントローラブルだと思わせないと、モノが売れないってことですかね。

深澤 女性誌は単純にいったら「モノを売るためのメディア」なんだから、それは悪いことじゃないんです。メディアを立ち上げる時に、ペルソナ(仮想読者)を作るでしょう。50代の女性を狙うのも、働く女・闘う女を狙うのもいいけど、ぺルソナが強すぎるんですよね。

宋 例えば「D誌」は高級ラインを狙って広告を安定させようと思っていたみたいですけど、お金を持っている独身のアラフォー富裕層が思っていたよりいないらしいです。

深澤 そうじゃなくて、そういった人は女性誌を読まないんですよ。「サライ」(小学館)とかオジサン雑誌を読む。「Pen」(阪急コミュニケーションズ)とか「BRUTUS」(マガジンハウス)。さらに今は、メディアと読者の距離が近づいてきてるから、女性誌が読者に対して、「体を冷やすな!」と姉目線・母目線になってしまってるんですよ。メディアが多様化する中で出てくる困った現象が、「冷え」や「ホルモン」に現れちゃってる。

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