サイゾーウーマンカルチャーインタビュー憎い母親の老後を受け入れる娘 カルチャー 映画『共に歩く』監督インタビュー 憎い母親の介護を引き受ける娘、「苦しみが生まれるとわかっていても」選ぶ葛藤 2014/04/06 16:00 インタビュー (C)2014「共に歩く」製作委員会 「親に愛されなかったといいう過去のトラウマから感情を抑えることのできない明美と、それを支える恋人・哲也」「アルコール依存症の父親の影響で自傷行為を続けるタケルとその母・真由美」「若年性認知症を発症した陽子と、困惑する夫・定雄」という3組の人間関係を描き、近年急増している“共依存”という人間関係をあぶり出すヒューマンドラマ『共に歩く』が、4月5日から全国で順次上映されている。実体験をベースに描いたという監督・宮本正樹氏に、自身の人間関係の困難さや、中年になった現在の親への思いを聞いた。 ――どれも非常に重たくて厳しい人間関係ですが、これらのエピソードは体験がもとになっていると聞きました。 宮本正樹氏(以下、宮本) 明美は僕自身の体験がベースとなっています。僕の母親はキレると、公の場でも「死んでしまえ」「お前なんか生まなきゃよかった」という暴言を吐くような人で、母親に愛された実感がありません。僕の母は“母親”になりきれておらず、“女”のままだったのでしょう。だから、母親は僕を息子としてではなく、男として見ていたのだと思います。男として期待しているので、自分の思うようにいかないときにヒステリーを起してしまうんじゃないか。自分なりにそう分析することで、精神状態をなんとか落ち着かせているのかもしれません。 学生時代交際していた彼女も、母親から娘としてではなく、女として扱われていたようでした。夫のことが大好きだった彼女の母親は、彼女と夫を取り合う関係だったんです。そんなトラウマがあるせいか、彼女もヒステリックな人でした。明美のように僕のことを束縛するし、感情を爆発させる。一緒にいるとつらいのですが、同情もあったし、そもそも彼女のことを好きだという感情から関係が始まっていたこともあり、その関係から抜け出せませんでした。 ――「なぜ別れないのか」と周囲は当然言ってきますよね。 宮本 友人たちからは散々言われました。当時は、彼らはわかっていないと反発していましたが、後になって考えると友人たちの指摘は正しかった。どんなに彼女のことをかわいそうだと思っていても、我慢の限界を超えてまで一緒にいるという関係はやはりおかしかったのです。ある日、「共依存」についての本を読んで、「自分たちの関係はまさにこれだ」と気づきました。タケルも僕の子どもの頃の姿です。ヒステリックな母との関係も影響していたのでしょう、父はアルコール依存症でした。そんな両親のもとで育った僕は、小学校・中学年の頃には強迫性障害や不安神経症になり、不安を抑えるための自傷行為はだんだん増えていきました。 ――作品の副題になっている「共依存」という言葉についてですが、監督が考える「共依存」とはどんなものですか。 宮本 僕がこの概念を知った当時、一般にはほとんど知られていませんでした。今は広く知られるようになった半面、言葉が独り歩きしている部分もある。「共依存」という概念は、アメリカのアルコール依存症の家族研究から発見されたものです。アルコール依存症の夫を持つ妻は、普通なら逃げたり別れたりするだろうと思われるのに、逃げない。「自分がいなくなったら夫の症状は悪化するだろう。自分が助けないといけない」と思い、それを生きがいにしているからです。そうして悪循環に陥っている状態を「共依存」という言葉で定義づけたのです。 「アダルトチルドレン」という言葉も同じです。これもアルコール依存症の父親と、彼を支える母親に育てられた子どもを指していますが、つらくて苦しいものなのに、何でも簡単に「アダルトチルドレン」とか「共依存」というくくりに入れてしまっているのではないかと感じています。本当はもっと複雑ですよね。 ――登場人物は、自分たちが共依存の関係にあることを認識することで、変化が起こりました。明美は、母親から受けたトラウマに気づいたけれど、母親を許したわけではないはずです。それなのに、なぜ「介護は自分が引き受ける」と断言したのでしょうか。 宮本 むごい仕打ちを受けて、あんな親なんかいない方がマシだと思っていても、ある瞬間にそれを忘れてしまう。本能的に、親が好きだという気持ちはゼロにはできないんです。親は子どものことを突き放すことはできますが、子どもにはできません。僕もそう。あんな親、二度と話したくないと思っていながら、ふと「元気にしているかな」と思う瞬間があるんです。そして何年かに1回ですが、母に電話してしまう。でもまた大ゲンカになって電話をたたき切る。その繰り返しです。 昔迷惑をかけられたから、その存在が強烈に印象づけられているのでしょう。絶えず気になってしまう。そういう親子関係だけに、親が年老いた時に、より濃密な苦しみが生まれるのかもしれません。子どもは、親の呪縛から逃れることはできないと思うんです。おそらく、明美も新たな苦しみを味わうことになるのでしょうね。 ――現在、お母さまはどうされているのですか。 宮本 北九州で一人暮らしをしています。執念深く(笑)、今も年賀状が来ます。自分からは出しませんが、来ると元気で暮らしているんだと安心はしますね。このままだと最期は孤独死することになるでしょう。どうしたらいいんだろうと思ってしまいます。 ――「共に歩く」というタイトルどおり、明美と哲也は共に生きていくことを選びました。共依存の関係にある2人が別れずに生きていくことは、果たして正しい選択なのかと。 宮本 共依存を脱するためには別れないといけない、というのが教科書的な正解です。でも作家としてはハッピーエンドにこだわりたかった。僕自身、彼女と別れないで共に生きていくという道はなかったんだろうかと今も考えます。つらい状況でも支え合い、共に生きて、克服する。愛から始まった2人だからこそ、せめて映画の中だけでも最後まで添い遂げるという未来図を描きたかったんです。 宮本正樹(みやもと・まさき) 1973年東京都生まれ。日本大学芸術学部映画学科に入学し、監督コースで映画製作を学ぶ。その後、大学院へ進み博士号を修得。竹中直人監督の短編映画『u2』の出演者オーディションの模様を編集した『オーディション・ザ・ムービー』では、フィルム・ラバーズ・フェスタ2007でグランプリを獲得した。現在はフリーの映像ディレクターとして活動する傍ら、日本大学芸術学部映画学科の講師としても活動している。その他の監督作は『二十年後の約束』(03)、『うそつき由美ちゃん』(03)、『夢』(09)、『折り鶴』(12)など。 映画『共に歩く』公式サイト 4月5日(土)よりプレビ劇場ISESAKI、シネマート新宿・心斎橋ほか全国順次公開 ■ 配給・宣伝:ユナイテッド エンタテインメント 最終更新:2014/04/06 17:03 Amazon 『老い 下 (新装版)』 老いてから濃くなる執念と感情 関連記事 「父が死んだら兄と決別しようと思う」父親の介護をめぐる、姉妹と引きこもりの兄「親子の愛憎劇の幕引き、憎いなら憎めばいい」親の介護で繰り返される業空き家化した義母の家の片づけ、ゴミ屋敷同然の中から出てきたものは……母に“会いに行く”ことを選んだ息子、「ボケるとも悪か事ばかりじゃなか」「介護を助けてあげようなんて10年早かった」単身赴任で実家に戻った息子の後悔 次の記事 ジャニオタが生きる“社交界”の快楽 >