カルチャー
[サイジョの本棚]

長女の責務、失「女ともだち」、加齢でも逃れられない自意識……女の業をえぐり出す4冊を紹介

2014/03/22 19:00

――本屋にあまたと並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン(サイ女)読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します!

【単行本】

『女友だちの賞味期限<実話集>』(ジェニー・オフィル、エリッサ・シャッペル編著、川上弘美解説、プレジデント社)

 『女友だちの賞味期限<実話集>』は、失恋ならぬ「失『女ともだち』」の思い出を書き起こした、「壊れた友情」の実話集(川上弘美の解説が加わった復刊版)。

 本作の語り手は誰もが、かつての親友の美点、親密だった時期の楽しさを語る。その一瞬の花火のような美しさは色褪せてはいない。けれどもそれと同じくらい鮮明に、相手の不用意な一言で傷つけられた瞬間が刻まれている。特に、一組の元親友同士が、それぞれの視点から失った友情について振り返るエピソード「絶交の理由<A面><B面>」で語られる、お互いの“絶交のきっかけ”は絶妙にずれている。私たちは傷つけられたことは覚えていても、自分の放った言葉・行動は忘れてしまっているのかもしれない。

 友情は、いったん失ってしまえば、恋愛以上にあやふやなものだ。恋愛関係のような告白や別れといったはっきりした区切りもほとんどない。かつては恋人も入れないほど親密な関係だったとしても、無造作な一言で、疎遠になることもある。私たちが当たり前のように扱っている友情も、実は危ういバランスで成り立っていることを思い出させてくれる。

『長女たち』(篠田節子、新潮社)

 認知症を患って幻視・妄想を繰り返す母、重度の糖尿病なのに甘い物をやめようとしない母――。『長女たち』は、老いた母と向き合わざるを得ない、家を離れなかった(もしくは出戻ってきた)長女と母親の関係を描いた中篇集だ。本作では、愛情深く熱心に育てられ、その期待に実直に応えることで評価されてきた生真面目なタイプを「長女」という存在に託して、大人になった母娘関係の重さを正面から描いている。

 老いた母の「実の娘にそばにいてほしい」という期待に責任を持って応えようとする「長女たち」。全身で老いの重みをかけてくる母。母が娘に無防備になるのは、濃い関係を紡いできた信頼があるからだ。老いをわかっていても、助けを求めれば無条件に守ってくれたかつての“お母さん”をかすかに求めてしまう長女。一方で、十分に大人になった娘に対して、「母」という役割を徐々に降ろしていく母。関係を再構築しようとしてもがく母娘の姿には、はっきりした希望も美しい解答もないからこそ、多くの女性たちにとって、決して他人事とは思えない読み応えがある。

『死からの生還』(中村うさぎ、文藝春秋)

 2010年~13年まで「週刊文春」(同)に連載されたエッセイをまとめた本作。「女として高いランクを維持したい」という欲望を忠実にかなえようとすることで好悪はっきり分かれる彼女だが、生死をさまよう重体から復帰しても、その基本姿勢は変わらない。

 閉経についてのエッセイを求められ、冒頭に「閉経した」と書いたら「インパクトが強すぎるから」と修正を求められた話、お互いにコンプレックスを抱え合っていた美人従妹の死に対しての複雑な感情、闘病で悟ったことと3.11後の日本……。あくまで軽い語り口でロジカルにつづられる、決して軽くはないテーマの数々。そこに貫かれているのは、「人生はそもそも辛く、他者は無理解なもの」という人生観を踏まえた上での、「汝の隣人を笑うように己を笑え」精神だ。

 私たちは、加齢によって、過剰な自意識や煩悩から楽になれると思っている。しかし、彼女のエッセイからうすうす感じられるのは、たとえ閉経しても体力が衰えても、年をとればとるほど、少ない体力でさらに戦わなければいけないかもしれない……という、うんざりする現実だ。でも、その全てを笑い飛ばしながら戦う“女王様”兼“ババァ”である中村氏。多かれ少なかれ女として生きればいつかぶち当たりそうな壁に、自ら率先してぶつかりに行く彼女の戦歴ともいえる本書が、これからも嫌でも戦い続けなければいけない私たちの気力を貯めてくれるのだ。

【文庫】
『ひとり上手な結婚』 (山本文緒、伊藤理佐、講談社)

 共に2回目の結婚生活を送っている作家・山本文緒と、漫画家・伊藤理佐の2人が、「トイレの跳ねが耐えられない」「子どもがほしい?」「結婚の仕方も出会いもわからない」など、「結婚」をテーマとした一般読者からの悩みに答えるエッセイ&コミック。

 山本文緒は文章で、伊藤理佐はマンガで、それぞれの回答を寄せているが、しばしば悩みから脱線し、時にほとんどノロケになる。それでも嫌みがないのは、回答の内容そのものより、質問に答える2人から「完璧に何もかも気が合わなくても、面白い結婚生活が送れる」という希望が自然と伝わってくるからかもしれない。

 深刻さとは程遠い明るいテンションだが、出産や結婚のタイミングに迷う質問者たちに2人が共通して「現状が楽しくて変えたくなくても、いずれ必ず変化は訪れる」と語るメッセージは真摯なもの。結婚していてもしていなくても、自分の未来に希望を持ちたくなる一冊だ。
(保田夏子)

最終更新:2014/03/22 19:00
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