コラム
介護をめぐる家族・人間模様【第26話】

「大人になったら殺そうと思っていた」父親を介護する息子の殺意が切り替わった瞬間

2014/03/02 19:00
Photo by Vibragiel from Flickr

 2月も終わり、ようやく寒さも先が見えてきた。冬が終わるのも、もう秒読みだ。ああ、うれしい。ドカ雪で孤立したお年寄りなんて、どんなにか寒くて心細かっただろう。あとちょっとの辛抱ですよ。でもなぁ。暖かくなったらあっという間に梅雨になって、猛暑だ。って飛躍しすぎ?

<登場人物プロフィール>
古沢 哲也(51) 中国地方在住。妻と大学生の息子2人の4人家族
古沢 勝信(85) 哲也さんの実父。哲也さんの姉の家で暮らす。

■父親の認知症の進行は、亡くなった母にそっくり

 古沢さんの週末は忙しい。両親の介護を任せている姉の家へ行き、父親を家に連れて帰る。父親は認知症を発症して数年がたつ。古沢さんの顔がわからないことが多くなったという。が、古沢さんの表情は思ったよりも明るい。それはすでに母親で認知症の介護を経験済みだからだ。

「5年前に亡くなった母も、最初はなんだかおかしいなと思いながらも、まさかという気持ちがあって、病院に連れて行ったのはもうかなり時間がたってからでした。それからは坂道を転がり落ちるようにどんどんひどくなって、今の親父と同じように僕や姉の顔もわからなくなり、最後の数年は寝たきりでした。僕は仕事をしているので、専業主婦だった姉が実家に通いながら介護をしていたのですが、後半は姉の家に両親を引き取ったんです。施設に入れることも考えましたが、その頃はまだ親父も元気だったので2人で、なんとか介護できるということで。申し訳ないので、週末は必ず顔を出すようにしていましたが、母が廃人のようになっていくのをただ見ているだけしかできなかった、という後悔が残っています」

 父親が認知症だと診断されたのは、母親が亡くなる少し前のことだった。母親の介護で悔いが残っていた古沢さんは、父親に対してはもう少しできることをやりたいと思った。

「親父の進行具合を見ていると、母とよく似ているんです。夕方になると『家に帰る』と言いだすとか、晩ご飯を食べてないと言うとか、もうそっくりですよ。ということは、これからどんなふうになっていくのかも、だいたい予測がつく。だから、僕の顔がわからなくなった時も、母の時ほどのショックはなかったんです。逆に、認知症にいいと言われていることを試してみたらどうなるんだろうという、好奇心のようなものも芽生えてきました。僕は理系なので、なんでも実験したくなるんです。まあ姉のように毎日介護をするわけではないので、偉そうなことは言えないのですが」

■症状を進行させないようにがんばろうと思う

 最初は計算ドリルをやらせたり、昔の歌を聞かせたり、「真面目に、結構厳しくやらせた」という。

「でも、あまり効果はありませんでしたね。それよりも、明らかに親父が嫌がっていました(笑)。子どもたちに、『お爺ちゃんが嫌がるものを無理にさせるのは、一種の虐待じゃないか』と批判されて、あきらめました」と苦笑する。

 とかく、夫や息子の介護は真面目になりすぎると言われるが、古沢さんもまったくその通りだったようだ。それから古沢さんはさまざまな本を読み、また新たな方法を発見した。それは、親が一番好きだったことを一緒に行うというものだった。

「親父は将棋が大好きだったんです。退職してからは、集会所の将棋クラブに参加して将棋仲間と楽しく将棋を指していたんですが、だんだん頭が働かなくなって負けてばかりになったようで、やめてしまいました。でも、ほとんど趣味のなかった親父が唯一好きだった将棋を、ダメもとで一緒にやってみることにしたんです」

 この将棋作戦は大成功だったという。古沢さんや子どもたち、時には父親の昔の友人や叔父を家に呼んで、昔のようにみんなでワイワイ言いながら将棋を指していると、驚くほど父親の表情が明るくなり、会話も弾んだのだ。

「驚きましたね。この方法がいいのなら、母にもやってあげたかったと思いました。母は料理好きだったのですが、火の始末が危なくなってきたので、電磁調理器に変えて絶対に料理をさせないようにしたんです。それがかえって母の意欲を削ぐことになったんじゃないかと思ったりもします」

 それにしても、古沢さんの研究熱心さには頭が下がる。「お父さんのためにそこまでやるなんて本当に親孝行な息子さんですね」。そう言うと、古沢さんは大きくかぶりを振った。

「逆ですよ。親父は昔から暴力的で、僕は子どもの頃からどれだけ殴られたか。たまらず大学生になって家を出ましたが、中学高校の頃なんてほとんど毎日のように殴られていて、大人になったら、親父を殺してやろうとさえ思っていました。今は親父を許した、というのともちょっと違う。自分でもなぜだかわからないけれど、今は親父の症状を少しでも進行させないようにがんばろうと思っているんです」

 殺してやるというスイッチが、一生懸命に介護をがんばるというスイッチに切り替わったということか。極端にマイナスのスイッチと極端にプラスのスイッチは、表裏一体なのかもしれない。スイッチが、また切り替わらないといいのだが。

最終更新:2019/05/21 16:07
アクセスランキング

今週のTLコミックベスト5

  1. 幼馴染は一卵性の獣~スパダリ双子とトロトロ3人生活~
  2. 今宵あなたとひたむき淫ら
  3. 水着をズラした彼のアソコは超XL~更衣室で肉食獣みたいに攻められ乱れて入ります!?~
  4. ニセモノの恋なので溺愛はいりません
  5. アソコのサイズが見えるようになったのですが!?~通常サイズがほとんどなのに会社の隣の彼がXL!?~
提供:ラブチュコラ
オススメ記事
サイゾーウーマンとは
会社概要
個人情報保護方針
採用情報
月別記事一覧
著者一覧
記事・広告へのお問い合わせ
プレスリリース掲載について
株式会社サイゾー運営サイト