剥き出しの性欲とセックスを嘲笑する私たちが、突き落とされる『愛の渦』の場所
中でも見ものだったのは、参加者女性の中で最も容姿に長けるOLのマンコが「実はとてつもなく臭かった」ことを発端にしたいざこざだ。OLよりも容姿が劣る保育士は、その事実を男性参加者から聞くと、鬼の首を取ったかのように振る舞い、彼らをドン引きさせてしまう。わずか数時間同じコミュニティに属するだけの間柄でさえも、「あの女より私の方が、女として優れていると思われたい」と虚栄心を満たしたくなる。その姿は、劇中「愚かなもの」として描かれ、これまた見る者の嘲笑を誘うのだ。
そんな滑稽な描写だらけの本作だが、唯一暗いニートの青年だけが、この世界観に反旗を翻すような行動を取る。彼は、地味な女子大生に恋愛感情を抱いてしまうのだ。それをほかの参加者に罵倒されるも、頑なに折れることない彼の姿は、観客に嘲笑を通り越して苛立ちを、さらには切ないという感情を呼び起こさせる。
性欲を満たしたい――ただそれだけなのに、恋愛感情や虚栄心といった、ある意味“余計”な感情に振り回され、本性をあらわにしてしまう参加者たち。しかし、ニートの青年を見ていると、「でも本当は人なんて、そんな情けない存在でしかないのではないのか?」ということに気付かされる。その問いは同時に、セックスをめぐって揉めごとを起こす参加者を、上から目線で嘲笑おうと、スクリーンに前のめりになっている観客自身にも投げかけられる。
劇中、気まずい雰囲気を「みなさん、スケベなんですよね?」という一言が打ち破るシーンがある。痛烈なメッセージ性のある本作にもかかわらず、意外にも鑑賞後、一戦終えた後のような爽快感を抱いてしまうのは、観客も本性があらわになった「ただのスケベ」でしかないことに、どこか安堵できるからなのかもしれない。
(阿部ふみ)
【公開情報】
2014年3月1日(土)テアトル新宿他にて公開
原作・脚本・監督:三浦大輔
出演:池松壮亮、門脇 麦、新井浩文、滝藤賢一、三津谷葉子 、窪塚洋介、 田中哲司
制作プロダクション:ステアウェイ
製作:映画「愛の渦」製作委員会(東映ビデオ、クロックワークス)
配給:クロックワークス
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