真央ちゃんや結弦くんよりドラマチック!? 失踪者続出のスケート漫画『愛のアランフェス』
いやー、なにもかも携帯電話のなかった時代のせいですね。多分この人たち、約束しても待ち合わせ場所で会えないと思う。
そして、そんな度重なる失踪以上に謎なのは、亜季実が上京するまで、室内のスケートリンクで滑ったことがなかったらしいということ。「こんな状態のいいリンクで滑るのは初めて!」とか言っているのだが、ちょっと待て亜季実。お前は今までどこに住んでたんだ、北極か? 釧路の湖でスケートができるのはせいぜい12月〜3月くらいまでらしいし、いくらなんでもオンシーズンが短すぎやしないか? そんな環境で、国内トップレベルのテクニックが身についたんだとしたら、まさに天才少女だ、世間が騒ぐわけだよね。
とはいえ、作者本人も「当時は大げさな設定でしか話が書けなかった」というようなことを言っているので、わかってやってたことらしい。その上でもう一発突っ込ませていただくと、初めからちゃんと説明してりゃあ問題なかったのに、何をやらすにも誰もなにも説明しないから、亜季実はいちいち「どうしてリンクで練習できないの?」「どうして離ればなれなの?」とか悩んで泣いている。鬱陶しいから前もって説明してやってくれ。そう、『愛のアランフェス』は、スポ根漫画ではなく、ミスコミュニケーションの問題や、社会人の基本と言われる「ホウレンソウ」を守りましょうね、ということを読者に教える教科書なのかも。
そして最後にこのマンガの楽しみ方を。作中でシングルのトップ選手、貝谷真紀子と筒美一もアイスダンスに転向してる(この2人はのちの作品『白のファルーカ』(集英社)でコーチ役となって登場)。これをリアルな選手像に当てはめてみると、浅田真央ちゃんが、高橋大輔くんのケガからの復帰をサポートし、ペアを組むことになったとか、安藤美姫ちゃんが南里康晴くんとアイスダンスに転向するとかってことだよね。ああ〜、ガチでそうなったら楽しそうだ。
■メイ作判定
名作:メイ作=6:4
和久井香菜子(わくい・かなこ)
ライター・イラストレーター、少女漫画研究家。『少女マンガで読み解く 乙女心のツボ』(カンゼン)が好評発売中。ネットゲーム『養殖中華屋さん』の企画をはじめ、語学テキストやテニス雑誌、ビジネス本まで幅広いジャンルで書き散らす。街で見かけたおかしな英文から英語を学ぶ「Henglish」主宰。