「父が死んだら兄と決別しようと思う」父親の介護をめぐる、姉妹と引きこもりの兄
「よく聞く話ですが、父も3週間の入院中にすっかりボケてしまったんです。私のこともわからなくなってしまいました。退院してからは、きちんと体調管理をするようにとお医者様に言われました。また入院されても困るので、姉と分担して毎日実家に通うことにしました。安定しているうちは、夕方に行くだけでいいんですが、体調が悪くなると朝も薬を飲まないといけないので、朝にも様子を見に行きます。今は頭もしっかりしてるから介護認定は受けていませんが、介護認定を受けてヘルパーさんをお願いしようと言っても父が嫌がるんです。母親代わりとして私たちを育ててくれたので、できるだけのことをしてあげたいと思っているんですが、実家通いに疲れると、正直『ちょっと入院してくれないかな』と思うこともあります。これから子どもが中学生になって受験とか始まると、今のやり方は続けられないかもしれないとも思いますね」
■兄とは赤の他人。父が死んだら決別する
そんな不安が現実になった出来事があった。先日、深夜に父親から「自分がどこにいるかわからない。すぐ来てほしい」という電話がかかってきたのだ。
「そう言われても、どこにいるのかもわからない。ともかく実家に向かうしかないと車を走らせていると、『タクシーで家に戻った』と。実家に着くと、父が戻っていてホッとしたのですが、本人はまだちょっと様子がおかしくて、何をしていたのか聞いても混乱して、辻褄の合わないことをしゃべっているんです。しばらくしてようやく落ち着いたんですが、『徘徊する年寄りってこんな感じなんだろうな』と。私もショックだったけれど、父はもっとショックだったんですね。今の“なんちゃって”をあとどれくらい続けることができるのか、さらに不安になりました。それ以来、電話が鳴るとドキっとします。これからどうするか、姉とも話していますが、有料老人ホームは高くて無理だし」
高橋さんや姉が実家に戻ることは考えていないのかと聞くと、「恥ずかしい話なんですけど……」と、実家に兄がいることを打ち明けてくれた。
「いる、といっても赤の他人です。もう30年以上会話したことも、顔を合わせたこともありません。母が病弱で、ずっと入退院を繰り返していた頃、グレてしまって、それからは私が知っているだけでも、借金を返せなくて家に取り立て屋が来たり、警察沙汰を起こしたり、とロクなことはありませんでした。ずっと父が尻拭いしてきたんです。だから、父のことを相談するどころか、赤の他人でいいからもう私たちに迷惑をかけないでほしいと願うレベル。だから今の“なんちゃって介護”も、私と姉と父の問題。あとは自分がどこまで納得できるかですね。さすがに父が死んだら、30年ぶりに兄と顔を合わせることになるでしょう。それを最後に、完全に兄とは決別しようと思っています」
その最後の言葉には、「なんちゃって」はつかなかった。