コラム
深澤真紀の「うまないうーまん」第10回

「血縁こそ家族」思想が壁となる、里親と養子縁組の未周知問題

2014/02/07 22:00

 そして里親には公費から里親手当が支払われる。これは公費で運営されている養護施設の代わりに、里親が子供を養育するという発想なので、公費が発生するのである。的確な例えではないが、保育園という施設と、個人で保育する保育ママのような違いといえるかもしれない。一方の養子制度は、普通養子にも特別養子にも公費は発生しない。

 ほかにも普通養子と特別養子の違いがいくつかある。

 まず、普通養子の場合はシングルの成人であれば男性でも女性でも親になることができ、子供の方の年齢も問われない。そのため、婿養子や再婚による連れ子養子や孫などを養子にするケースだけでなく、同性愛者の“結婚”制度として使われたり、画家の岡本太郎も実質的な妻である敏子を養子として迎えたりしている(太郎は結婚制度を望まなかったが、敏子に遺産を相続したかったため養子縁組したと言われる)。

 しかし特別養子の場合は、成人夫婦(片方は25歳以上)でなければ養子を迎えることはできないし、子供の年齢も6歳未満である。

 そして普通養子は家庭裁判所に申し立てをすれば親子関係を解消できるが、特別養子は本当の親子関係になるために、基本的に一生親子関係を解消することはできない。さらには普通養子は、15歳未満の場合は実親の同意が必要であるが、特別養子は実親の虐待、遺棄などが認められれば実親の同意なく縁組ができるため、子供の権利を守るシステムだともいえる。

■「大人養子大国」ニッポン

 このドラマの中では、理想の里親はブラッド・ピット&アンジェリーナ・ジョリー夫妻であると夢見る子供が描かれている。たしかに彼ら以外にもマドンナなど、海外セレブは養子を迎えていることが知られている。そのために日本には養子制度が浸透していないというイメージがあるかもしれないが、そんなことはない。

 養子大国として知られるアメリカの年間養子縁組は11万組。一方の日本でも年間8万組の養子縁組が行われており、アメリカだけではなく日本もまた養子大国なのである。ただし、日本のケースは7割近くが婿養子などの「成年養子」であり、残り3割も再婚による「連れ子養子」や孫・甥・姪などの「血縁養子」で、血縁のない「他児養子」と縁組をするのはわずか1%の「大人養子大国」なのだ。一方のアメリカでは他児養子が半分を占め、残りは連れ子養子や血縁養子で、日本のように成年を養子に迎えることほとんどはない「子供養子大国」である。

 それぞれ養子大国でありながら、その内容はまったく違う。この違いの理由は、アメリカでは養育を必要とする子供が多いということ、そして日本での養子制度は、名字や墓や財産の継承を重視するシステムになっているということである。

 しかし日本でも養育を必要とする子供が増えているのに、里親も養親もなかなか広がっていないのだ。
 アメリカでも他児養子に対しては、「血縁がない子供を迎えるなんて」という偏見はあったというが、政府やキリスト教団体などの活動で、今ではシングルや同性愛カップルが養子を迎えたり、ブラピとアンジーのように海外の「国際養子」を迎えたりと、「子供養子」が多様化してきた。

 一方の日本では歴史的には養子には寛容な国であり、戦前までは「他児養子」も多くいたのに、むしろ現代になってほとんどなくなってしまったのだ。これは戦後の家族観が「働く父親と専業主婦の母親と血のつながった2人の子供」に固定化されてしまったからかもしれない。前回のテーマである生物的な親と法律上の親の問題も、これにつながってくるのだ。

 「血縁のある家族」こそ「本当の親子」という幻想はここ数十年に強化されたもので、そのために「他児養子」などの「血縁のない家族」というシステムをつくること自体が困難になっているのかもしれない。そこには、「子供をどう育てるべきか」という子供を重視する視点が欠けているのだ。そしてそれは『明日、ママがいない』というドラマが問題になっている要因なのだと思う。

深澤真紀(ふかさわ・まき)
1967年、東京生まれ。コラムニスト・編集者。2006年に「草食男子」や「肉食女子」を命名、「草食男子」は2009年流行語大賞トップテンを受賞。雑誌やウェブ媒体での連載のほか、情報番組『とくダネ!』(フジテレビ系)の金曜コメンテーターも務める。近著に『ダメをみがく:“女子”の呪いを解く方法』(津村記久子との共著、紀伊國屋書店)など。

最終更新:2019/05/17 20:09
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