「血縁こそ家族」思想が壁となる、里親と養子縁組の未周知問題
芦田愛菜主演のテレビドラマ『明日、ママがいない』(日本テレビ系)に対して、児童養護施設などの関係者から抗議の声が上がり、「番組中止を求められる」ほどの問題になっている。このドラマでは、芦田愛菜演じる主人公のあだ名が「赤ちゃんポスト」からとった「ポスト」というものであったり、児童養護施設での暴言や暴力が描かれていることで、赤ちゃんポストや、児童養護施設の子供や関係者への偏見を助長していると問題視されている。
当初は、「番組内容は変更しない」「最後まで見てほしい」と突っぱねていた日本テレビ側も、すべてのスポンサーがCM提供をやめたことなどもあり(ただしスポンサー契約はそのままなので広告料はテレビ局に入っており、あくまでCMがオンエアされていないだけだが)、番組の責任者が日本テレビに抗議書を提出した全国児童養護施設協議会側と会って、「番組内容を一部変更する」ことになっている。
この件に関しての私の意見は、主人公のあだ名が「ポスト」である以上、現在日本で「赤ちゃんポスト」があるただ1つの施設である、熊本県の慈恵病院にまったく取材しないでドラマ作りするという姿勢は、やはり問題だと思っている。制作側としては、子役というよりも名女優である芦田愛菜に難しい役を演じさせたいという思いのために、複雑な「設定」ありきの役作りになってしまったのだろうと思う。実際に大変に難しい役を見事に演じている芦田愛菜がすばらしいだけに、この問題が気の毒でならない。
そしてもう1つの問題は、ドラマに出てくる里親制度や養子縁組について、多くの人々がよくわかっていないということだ。
そもそも「赤ちゃんポスト」は、ベルリンの壁崩壊後のドイツで病院やキリスト教団体に設置されたシステムで、日本でもいくつか似たようなシステムがあったが、最近では2007年に慈恵病院に設置され、話題になった。
「赤ちゃんポスト」とはマスコミなどで使われる通称で、慈恵病院での正式名称は「こうのとりのゆりかご」であり、病院の目につきにくい場所に大きなドアがあり、その内側にある保育器に子供が置かれるとアラームが鳴り、病院の関係者が子供を引き取って、健康状況を確認してから、児童相談所が乳児院に子供を移す。乳児院は1歳までの子供を養育する施設で、児童養護施設は1歳から18歳までの子供を育てる。ドラマでは、児童養護施設をモデルにしており、施設から里子として引き取られる過程を中心に描いている。
ここで大事なことは、里親制度と養子縁組は違うということだ。
そもそも児童養護施設に預けられている子供は、親がいない子供だけではなく、むしろ親はいても子供が育てられない状況のために預けられているケースが圧倒的に多い。このドラマでも、芦田愛菜の演じる主人公以外の子供たちには親がいる、という設定で描かれているようである。そのため、施設ではまずは里親を探すことが多い。
養親と養子は戸籍上でも家族となるが、里親はあくまでも育ての親であり、18歳まで親代わりに育てるのである。養子縁組は2つに分かれており、元々の親との関係も維持したまま養親との関係を築き、戸籍には養子と記載される「普通養子縁組」と、元々の親との親子関係はなくなり、養親とのみ戸籍上の親子関係となり戸籍にも実子として記載される「特別養子縁組」がある。
つまり、里親制度は戸籍上の親子になるわけではなく、普通養子縁組では戸籍上の親子になるが実親との関係は維持され、特別養子縁組は戸籍上の親子となる上に実親との関係もなくなるという違いがある。