「赤いドレスの通り魔」「ひらひらさん」と呼ばれた連続通り魔・伊田和世の実像
世間を戦慄させた殺人事件の犯人は女だった――。日々を平凡に暮らす姿からは想像できない、ひとりの女による犯行。彼女たちを人を殺めるに駆り立てたものは何か。自己愛、嫉妬、劣等感――女の心を呪縛する闇をあぶり出す。
[第19回]
名古屋市連続通り魔殺傷事件
時に妙な磁場を持つ女性犯罪者や犯罪被害者が登場することがある。
東電OL事件の被害者となった渡辺泰子や、首都圏連続不審死事件の木嶋佳苗などがそれに当てはまるが、2003年に名古屋で起きた連続通り魔事件の伊田和世もまた、そうした系譜の女の1人だ。美人でしかも水商売やソープランドで働いた経験があった、当時38歳の和世は、マスコミに大きく取り上るのに十分の“磁場”を持っていた。
事件は03年3月30日午後8時前、名古屋市の住宅街で起こった。通りかかった20代の若い2人の女性が、赤い自転車に乗った見知らぬ中年女性に声をかけられた直後、包丁で切りつけられたのだ。1人は咄嗟に逃げて無事だったが、もう1人は7,000円ほど入った手提げ鞄を奪われ、腹を刺されてその後死亡してしまう。最初の通り魔事件である。その2日後の4月1日午後0時過ぎ、前回の現場からさほど離れていない名古屋市内の路上で、やはり20代の女性が赤い自転車に乗った中年女性に包丁で襲われた。女性は腕や手を切られ4万円ほどの入ったシャネルのバッグを奪われた。
近隣で起こった2つの通り魔事件だったが、犯人は赤い割烹着を着た中年女。厚化粧で赤いママチャリに乗っていたなどの共通点があったことから、同一犯との見方が強まった。そのため「赤いドレスの通り魔」と呼ばれたが、その後は同様の通り魔事件は起こることなく、犯人も不明なまま5カ月ほどがたっていった。
そんな8月28日未明。民家の物置で盗みを働いたとして、伊田和世という女が現行犯逮捕された。当初は単なる窃盗犯だと思われていた和世だが、和世の家を家宅捜査した警察は色めきたった。そこには4月の通り魔被害者のシャネルのバッグや血の付いた包丁があったのだ。急遽、和世は強盗殺人未遂容疑などで再逮捕された。色めき立ったのはマスコミも同様だった。連続通り魔事件の女犯人は美人な上、水商売やソープ歴さえあったからだ。さらに、犯行の際には派手な赤い割烹着や花柄のブラウスにロングスカートという犯罪を起こすにしては“奇妙”な格好をしていたことも、マスコミの注目を引いた。悲しいかな、ハイエナ根性のマスコミは“美人”や“風変わりなもの”に飛びつく習性がある。加えて奇妙で不可思議な和世の過去の行動や人物像も次々と浮上、それらが報道されていったのだ。