貯蓄狂の「日経ウーマン」が、風水アイテム「刃物」を勧める、異常すぎる理由
■作家・山本文緒のチクッとする一言
しばしばこのレビューでも取り上げている読者投稿コーナー「WOMAN‘S TALK」ですが、本誌の読者投稿の特徴は、とにかく「他人に厳しい」ことです。今月も、「カップルさえもずっとケータイをいじって会話ゼロなど、せっかくの食事の時間が味気ないものに」と、客の食事のマナーに苦言を呈する飲食店勤務接客業の方の投稿や、「実家暮らしの3、40代の職場の先輩が、毎日お弁当を親に作ってもらっている」ことにケチをつけ「本当の意味で自立するために、お弁当は自分で作ったら?」と余計なお世話発言を繰り出す事務職の方の投稿がありました。「自分はちゃんとしている」という自負があるからこそ、他人のダメな部分を厳しく批判したくなるのでしょう。
「他人への厳しさ」がひしひしと伝わってくる同コーナーに対して、「自分への厳しさ」を極めた女性たちが登場するのが、「『働く力』の磨き方~ウーマン・オブ・ザ・イヤー2014~」です。「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」というのは、この1年間さまざまな業界で輝かしい功績を上げた女性たちを、「日経ウーマン」が年度末に選んで表彰する賞であり、今年は、五輪の東京招致のプレゼンターや、『あまちゃん』(NHK)の小道具デザイン担当者や、理系研究職、漁業改革の推進者などの方々が受賞していました。受賞者の共通点は、病気のハンデを乗り越えてパラリンピックに出場し、五輪の東京招致のプレゼンターとして活躍した佐藤真海さん(大賞)を始めとし、「どんな境遇に置かれても前を向いて、できることに尽力」していること。自分を追い込んで、新しい道を切り開いていける人が成功を手にすることができる! という日経ウーマンイズムを如実に感じます。
ダメ人間であるところの筆者は、自分や他人のダメなところを認めて、足りないところを補い協力し合うことでも人は前進していけると思うのですが、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」では、受賞者当人の努力と成功の軌跡が賛美されるばかりです。
ちなみに、今月号の「女を磨く読書案内」のインタビューに登場している作家の山本文緒さんは、新刊『なぎさ』(角川書店)の主人公が苦悩を乗り越え、新たに生きる道を獲得できた理由を問われ、「ある人に心を開いて助けてと言うことができたから」「一人で抱え込んでいても周りは手のさしのべようがない。他者とコミットすることができたら展開は変わる」と答えています。
このインタビュー、他人のダメさを厳しく糾弾したり、自分に厳しく努力することを良しとする「日経ウーマン」的価値観を地でいく、「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞者やウーマン読者へのメッセージなのではないかとつい考えてしまいました。
今後も自分に厳しく他人にも厳しく、どこまでも突っ走るのであろう「日経ウーマン」を、2014年も温かく見守っていきたいと思います。
(早乙女ぐりこ)