「nina’s」に漂う、“手間暇をかけた暮らしこそ幸せのカタチ”という強迫観念
■「夫」ではなく「オット」で一味違う感を……?
いくらナチュラル志向といっても、格好まで仙人ライクなワケではありません。まぁ、そこまで突き抜けてしまえばある意味ラクなのでしょうが、ママ友の目、義両親の目、世間の目……意外と気にしながら生きているのが「nina’s」ママたち。そんな彼女たちの苦悩がうかがい知れるページが「おしゃれママの『ウケ服』リアルコーデ」です。「誰と会う?褒められ服を考えた!」とありますように、「子どもにウケる」「オットにウケる」「ご両親にウケる」「ママ友にウケる」それぞれのパターンのコーディネートを紹介しています。これがなかなか世知辛い。
ママ友ウケには「普段すぎてもNG。おしゃれすぎてもtoo much!」と厳しいバランス感覚を求められ、オットウケには「甘すぎず、だけど女性らしさは忘れない!」と、しち面倒な気配りを。ご両親ウケの「ベーシックでちょっと控えめなコーディネート」はわかるとして、子どもウケの「子どもたちが触れたくなる素材、笑顔になるモチーフや色」とは、水森亜土ちゃんみたいな格好でしょうか。筆者は大きな勘違いをしていました。てっきりおしゃれ民というのは、自分だけのオリジナルな価値観のもとにファッションを楽しんでいるのだと思っていました。一般人がレディー・ガガの肉ドレスを見た時の感覚です。よくわからないけど(わからないから)おしゃれなんだろうと。
しかし実際の「nina’s」ママたちは、自由におしゃれを楽しむどころか、イスラム教徒のような厳しい戒律のもと、着る服をコントロールされていたのでした。ママ友から浮きたくない、オットに女として見られたい、義両親にはかわいがられたい、子どもたちには愛されたい……このような過剰な欲求と「nina’s」ママは日々戦っているのです。「nina’s」の生きづらさとは、ナチュラルにもおしゃれにも振り切れないところではないでしょうか。おしゃれを突き詰めて、生肉をまとうほどの覚悟はない。一味違う“フツーの人”、それが「nina’s」の目指すポジションなのです。それはいつでも“一般”に寝返ることができるというフレキシビリティである一方、常に人目を気にしなければならない疲労感も伴います。「nina’s」の一貫した“おいしいとこ取り”姿勢が透けて見える、なかなか骨太なコーディネート企画でした。
ナチュラル志向をアリバイとした過度な良妻賢母アピール、おしゃれの下の八方美人体質……今号の「nina’s」は、これでもかというほど「nina’s」らしいページがてんこ盛りでした。おしゃれママの苦悩、しかと受け取りましたよ。泣き言を一切言わない「nina’s」で唯一、それらしきものが吐露される読者の声ページ「ニナコミュ」にて、こんな投稿がありましたので、最後にご紹介したいと思います。「3才の長女の突然始まった夜泣き。寝ぼけているのか、目が覚めるまで大泣き。つられて次女も起きてしまい……(中略)長女を抱っこして、次女を背中におんぶして1時間。16kg+7kg=23kgで1時間はきつい……」あぁ、良妻賢母はツラいよ……。
(西澤千央)