“世間”に嫌われると有罪——『リーガルハイ』が暴く、ソーシャル時代の“世間”の怪物性
『リーガルハイ』(フジテレビ系)は勝つためなら手段を選ばない性格が最悪の弁護士・古美門研介(堺雅人)と、真面目な性格の弁護士・黛真知子(新垣結衣)が主人公の法廷ドラマ。2012年に放送された第一期(当時の名称は『リーガル・ハイ』)の続編に当たる作品で、今回は、争いを好まない人たらしの弁護士・羽生晴樹(岡田将生)が古美門のライバルとして登場した。
脚本を担当したのは古沢良太で、『相棒』(テレビ朝日系)、『外事警察』(NHK)、『鈴木先生』(テレビ東京系)などで見せた構成力の巧みさは本作でも健在だ。
どんでん返しにどんでん返しを被せていく先が読めない人を食ったストーリー展開もさることながら、明らかにモデルが存在する人物や事件のカリカチュアライズ(戯画化)も本作の見所となっている。堀江貴文、宮崎駿といった有名人をひな形とした登場人物が登場したり、同じフジテレビで制作された『北の国から』を茶化したりと、前作以上に攻めの姿勢を貫いており、テレビドラマのバラエティ化を最も象徴している作品だと言える。
また、前クールで古美門を演じた堺雅人が『半沢直樹』(TBS系)で大ブレイクしたこともあってか、平均視聴率12.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だった前作に較べて、平均視聴率18.4%と高視聴率を獲得し、今やフジテレビを代表するドラマに成長したといっても過言ではないだろう。
ライバル・羽生が率いる法律事務所「NEXUS Law Firm」は、勝訴にこだわらず、原告も被告も双方が幸せになる「win‐win」の関係を目指している。争いを好まないという羽生の思想は、勝つためには手段を選ばず、「競争こそが世界を豊かにする」という古美門の考え方とは真正面から衝突する。普通のドラマならば、常に争いを焚きつけ私利私欲で行動する古美門の方が悪役だろう。しかし、羽生の人当たりの良さに丸め込まれて、古美門はなかなか力を出し切ることができない。
本作では民意(世間)の暴走が大きなテーマとして扱われており、多数決で物事が決まる民主主義と、事件の真実を明らかにしようとする司法が、実は対立関係になっていることが描かれる。「この国では、世間に嫌われたら有罪なんです」と古美門は語るが、多くの人々から嫌われている古美門がもし弁護士でなければ、真っ先に世間から抹殺されていただろう。対する羽生のあらゆる人々から好かれ、民意を味方につけていく天性の「人たらし」ぶりは、ソーシャルメディアが発達した現在の社会において、最も恐ろしい怪物に見える。