[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」12月22日号・1月7日合併号

「婦人公論」の老後マネー特集を吹き飛ばす、中村うさぎの“生への渇望”

2013/12/21 14:30
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「婦人公論」12月22日・1月7日合併号(中央公論新社)

 2013年最後の「婦人公論」(中央公論新社)は合併号にふさわしい、濃厚な内容です。特集は「『ゆうゆう老後』と『貧困老後』の分岐点」。なにかと浮かれがちなこの時期に、シビアな老後のマネー企画を持ってくる「婦人公論」。もう若くないと自覚はしていても、「老後」と聞くと遠い異国のお話とスルーしがち。しかし思っているよりずっと老後は近くにある……わかってますわかってますけど! 震える気持ちを抑えつつ「安心老後のための問診シート」を試してみたところ、「時間を忘れるほど没頭し、心から楽しめる趣味や生きがいがある」→いいえ、「収入の範囲内で生活し、月々決まった率で天引き貯金している」→いいえ、「社会の役に立つ仕事、ボランティア活動に関心がある」→いいえ。「老後の具体的な準備には、ほとんど手をつけていないあなた。将来に不安を感じているのでは? 漠然と心配するだけでなく、できることから少しずつ始めましょう」とぐうの音も出ないほどズバリと言われてしまいましたので、2013年の総決算として老後の心構えを学ばせていただきます。

<トピックス>
◎上野千鶴子×荻原博子 決して手放してはいけない「家」と「友」と「1000万円」
◎内田樹×武田鉄矢 われら団塊、死ぬのが怖くなくなってきた
◎中村うさぎ 死線をくぐって、私の「正体」がわかった

■「死」をカッコよく語ることで、「生」を葬る男たち

 「リタイア直前世代のみならず、40代から早くも広がっている『貧困老後』への不安」と不安の押し売りも甚だしい「婦人公論」。しかし、文字にするとなかなか迫力がありますよね、「貧困老後」。振り込め詐欺のニュースを耳にするたび、不謹慎ながらお年寄りたちの蓄えの多さに驚いてしまうのですが、これからの時代は“持っている老人”と“持ってない老人”との格差はますます広がるそうです。

 特集は、老後にかかるお金の話を中心に、中高年ミュージカル劇団や自宅を改装した主婦の店のルポなど老後プライスレス系生きがいネタ、もちろん最後は「年老いた夫が目障りです!」という読者体験手記できっちりオトす、「婦人公論」の黄金比率ここにありといった内容です。特に興味深かったのは2つの対談「上野千鶴子×荻原博子 決して手放してはいけない『家』と『友』と『1000万円』」、そして「内田樹×武田鉄矢 われら団塊、死ぬのが怖くなくなってきた」。


 上野&荻原両先生は「来るべきその時を、不安ではなく期待で迎えるための『お金』と『心』の備えについて語り合う」ということで、とにかく現実的かつ具体的なアドバイスがメイン。例えば貯金なら「60歳の段階で1000万円を目指したいですね。住宅ローンは完済していて借金がなく、子どもは社会人になっている状態なら、不測の事態に備えられる額」(荻原)が必要。安心して老後を過ごすための絶対条件としては「誰からも出て行けと言われない住まいを確保すること。そして慎ましい生活であっても、支えとなる年金を失わないこと。それを実現するために、今、仕事をしている人は、その職を絶対に手放してはダメ」(上野)とのことです。

 女性たちが“考えうる最も最悪な場合”を想定し、その中でどう生きるかを論じているのに対し、内田&金八両先生のテーマは「自らの現在を『余生』『下り坂』と称する2人が考える、人生の師、終活、老いゆくときの心の持ち方とは」と、向かう先は完全に“死”。先ほどの対談と比べると、だいぶ哲学的な内容です。名言マシーン内田樹氏と、内田を「心の師」と仰ぐ武田鉄矢の師匠と弟子コントが延々と続きます。

「ある年齢を超えると、生きながらすでに死に始める。(中略)加齢が始まってあちこち痛み始めてから、すべての人の記憶から存在が消えるまでが『死の時間』だと思うんです」(内田)
「内田師範の本には「『死んだあとの私』という想像的視座」というすごい言葉が出てくる。その視座なしには、今この瞬間のリアリティさえもありえないのだ、と」(武田)

婦人公論 2014年 1/7号 [雑誌]