『ゆっくり 破って』から考える、「三十路の処女はいかに“破られる”べきか?」
■今回の官能小説
『ゆっくり 破って』(深志美由紀、イースト・プレス)
「三十路の処女」という女性は、果たして存在しているのだろうか。男が苦手なわけでも、同性愛者でもない。学生時代には交際相手もいたし、デートもキスも経験した。しかし、その先にはいかなかった。そしてそのまま大人になり、気がついたら三十歳を過ぎていた……私は、そんな都市伝説のような女性はほとんどいないと思っていたが、最近、実は意外と少なくないのではないかと感じている。恋愛全盛期の20代から三十路前を経て、晴れて結婚に落ち着いた女友達何人かが、「実は……旦那が最初で最後の男」だと、今になって私に告白しだしたのだ。
セックスを知らない女たち。ドラマや小説、レディコミなどの偶像だけが、彼女たちの“経験”である。空想の世界を泳ぎ、いつか誰かに抱かれる日を待ち焦れ、セックスに思いを馳せている。今回ご紹介する『ゆっくり 破って』(イースト・プレス)の主人公・理津子もまた、30歳にして独身、そして処女だった。
理津子は、人には言えない秘密の性欲を持っていた。お気に入りのアニメのテープを探していた理津子は、ひょんなことから父親が隠し持っていたSMプレイが録画されているビデオを見てしまう。真っ白な肢体に赤い蝋燭が垂らされ、鞭の跡が赤黒く筋を這わせる。厳格な父親の隠された側面を盗み見てしまった理津子は、何度もそのビデオテープを頭の中で反芻し、狂ったように自慰に耽った。
誰にも言えない屈折した性癖を持ちながら、処女である理津子。しかし社内では、仕事に厳しい脅威の存在かつクールビューティーな女性として通っていた。そんな彼女の性をたやすく破ったのは、部下の塩井だ。社用車で外回りを終えた夜、理津子は車の中で塩井に犯されてしまう。
初めて男に抱かれるという行為は、ドラマや漫画に描かれているような甘くとろけるものではなかった。強く頬を叩かれ、卑劣な言葉を浴びせられ、初めて見る猛ったペニスは、体内に容赦なくめり込んで来る。「うそ、主任、処女だったんすか?」と、凍り付くような嘲笑を浴びせる塩井に、泣き叫びながらも、彼女の恥部はどうしようもなく濡れていた。
理津子は塩井の前では下僕と化した。メールで呼び出されれば即座に向かい、命令を下されれば従う。彼が持つスマホの中には、犯されている理津子の写真が無数に保存されていた。理津子は、その写真をばらまかれることを恐れていたが、その半面、幼い頃から憧れていたSMという世界に足を踏み入れることができたことに、濡れていた。塩井との関係に混乱しながらも、理津子は次第にその主従関係に身を委ね、陶酔していった。