『あまちゃん』ブームに反抗を続けた中年女が味わった、屈辱と敗北
■中年女と「あま」の戦い、最終結果は……
しかしそれでも、月日がたてば、ドラマは最終回を迎える。『あまちゃん』の放送終了に、嘆き悲しむ人々が続出したようであったが、私はホッと胸をなでおろしていた。「ああ、これで己の中の、殺伐とした醜い感情に振り回されずにすむ」……穏やかな安堵感に包まれながら、新番組『ごちそうさん』を、自分の中に優しく迎え入れていた矢先の事だった。
場所は保育園の運動会にて……運動会。カンのいい読者の方なら「もしや!!」と、思わずほくそえんだのではないだろうか? そう、その、「もしや」である。私は以前、知人から「最近の運動会では、『あまちゃん』のオープニングの曲がよく使われてるみたいだよ!!」ということを聞かされていた。確かに言われてみれば、あの曲は、運動会にピッタリである。元気でワクワク楽しい曲、なおかつ人気絶大な『あまちゃん』だし。ここで使わないでどこで使う? というくらいの、ナイスな選曲である……だから。
「……もしかして、やっぱりこの運動会でも流れるのかな、あの曲……流れるのかな……」
私はさりげなく、『あまちゃん』の影に怯えていた。「やはりここにも、『あまちゃん』の波が押し寄せてくるんだろうか……」気もそぞろな状態で、ほかのお母さん達と談笑していたら、「いるか組の父兄の方々はこちらにお集り下さ~~~い!!」という呼び出しがかかった。どうやら、次男のクラスの親子競技が始まるようである。先生に促され、子どもと手をつないで、ちょっぴりドキドキしながら、でもほっこりとした気分でスタンバっていたら……なんと、場内に大音量で流れ始めたのが「あの曲」であった……あの曲。私が一番恐れていた、あの曲である。「あっ、あまちゃんだぁ~~~!!」。誰かがうれしそうな声を上げた。
「さあ皆さん、元気に行進してくださ~~~い!!!!」
本当に、なんということだろう……「この曲」に乗って行進……ほかにも色々競技はあるというのに、なぜ、どうして今、狙い定めたようにここで、「コレ」なのか? 場内では、軽快なメロディーに合わせて手拍子がわき上がっていた。そんな和やかなムードとは裏腹に、苦みばしった渋い面構えで行進する私……「バチが当たったのかもしれない……」と、私は思った。『あまちゃん』を「あま」などと呼び捨てにして、毛嫌いをしたから天罰が下ったような気がしたのだ。
自分は、「あまちゃんに負けた」と思った。あの曲に身を任せながら、そう思った。そしてうっかり、「じぇじぇじぇ……」とかつぶやきそうになった。
「……もういい加減、理由なき反抗なんてやめたら……?」
もう1人の自分が、私の耳元で囁いた……ジェームス・ディーンのような中年女……大人げないというよりも気持ち悪い……。やはり、長いものには巻かれた方が、もっとラクに楽しく生きていけるのだろうか。
ところで余談だが、今回の運動会で私は、保護者競技にも参加した。お父さんお母さんたちが、男女交互に手をつないで輪くぐりする競技だったのだが……よその家のダンナと公然と手をつなぐのは、なかなか新鮮だ。大人だけ参加の保護者競技には、そんなドキドキ感も味わえる、ニクい演出がほどこされてたりするもんである。そしてこの時、場内を盛り上げるべく流れてたBGMが、エグザイルの「Choo Choo TRAIN」であった。
「長い人生の中で、たまにはこんなふうに、エグザイルに身をゆだねる日があってもいいのかもしれない……」
そんなふうになんとなく、「思えば遠くへきたもんだ」感を味わっていた私……一緒に手をつないだ、よそんちのダンナの手の平が、やけにフカフカ肉厚で、自分の夫とはまるで違う感触なのが、とても新鮮であった。