芸能
ドラマレビュー第22回『49』

野島伸司の少女への歪な憧憬と中年臭さが融合した、ジャニドラマ『49』の面白さ

2013/10/30 11:45
『49』(日本テレビ系)公式サイトより

 『49』(フォーティーナイン)は、日本テレビ系の土曜深夜に放送されている学園ドラマだ。銀行員として働く加賀美幹(かがみ・かん)は、離婚届を会社に持ってきた息子の加賀美暖(だん、Sexy Zone・佐藤勝利)が車の事故に遭いそうなところをかばい、命を落としてしまう。しかし幹は、別宅で飼っている猫のランが気がかりだったため、息子に頼み、49日間だけ肉体を借してもらう。暖の体に乗り移った幹は、父親がわからない子どもを身ごもった娘の裕子(野村麻純)や引きこもりがちの暖の生活を知り、現世にいられる49日間を、家族のために過ごそうと奮闘する。

 『49』が放送されている深夜ドラマ枠は、『私立バカレア高校』以降、ジャニーズ事務所出身の若手アイドルが主人公の学園ドラマが放送されている。SMAP・稲垣吾郎主演の『診療中―in the Room―』のような例外はあるにせよ、近年では10代の若手俳優の登竜門として、瑞々しい作品を多く放送し、ドラマファン、アイドルファンから注目されている。とはいえ、深夜に放送されている以上、マイナー枠であることは間違いない。そのゆえ、野島伸司が脚本を書くと知った時には正直驚いた。

 野島伸司は1990年代に『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)のような純愛ドラマや、『高校教師』や『未成年』(ともにTBS系)のような文芸性の高い作品を次々と手がけ、多くのヒット作を生み出した人気脚本家だ。野島伸司の脚本の魅力は、ベタベタな物語を躊躇なく描ける構成力の高いシナリオと、時に歪とも言える独特のメッセージ性にある。しかし、『未成年』以降はセリフやナレーションで手前勝手なメッセージを垂れ流すようになってしまい物語性が失われ、テレビドラマとしてはバランスを崩して大衆性を失っていた。

 2000年代以降は、再び職人性の高い作品を作るように持ち直したが、歪なメッセージ性は相変わらずで、近年ではヒット作もなく、迷走していた。その意味で、深夜ドラマにたどり着いたのは驚く一方で、当然の帰結だったとも言える。

 しかし驚いたことに『49』は面白いのだ。

『女王の教室』(日本テレビ系)等でシャープな演出を見せていた大塚恭司を中心としたディレクター陣や、主演の佐藤勝利を筆頭とする若手俳優陣の奮闘はもちろんあるだろうが、それ以上に野島伸司が水を得た魚のように生き生きとしている。時々入るおっさん臭い人生訓や説教も、そもそも暖の中身がおっさんなので、ギャグとしてスルーできる。前作『理想の息子』(同)からその兆候はあったが、ジャニーズアイドル主演の学園ドラマという枠組みは野島伸司と実に相性がいいのだ。

 『49』のテーマは一言でいうと青春のやり直しである。「最近の若い奴らはダメだなぁ。俺が今、高校生だったら、イケイケだぜ」と思っているおっさん(野島伸司)の願望を、物語の中に見事に落とし込んでいるのだ。

 だから引きこもりで根暗だった暖は、幹が乗り移ったことで、スポーツ万能になり、幼なじみの高見幸(山本舞香)のいじめを解決し、学園のマドンナ・水無月マナ(西野七瀬)にも熱烈にアプローチする。そしてバスケ部の不良たちとも仲良くなり、学園生活を見事に満喫している。毎回、見せ場となるシーンでチキンバスケッツが歌う挿入歌「私のオキテ」がかかるのだが、その瞬間が、ザ・青春って感じがして、実に気持ちがいい。

 しかし、微妙に気持ち悪いところも健在で、お父さんが乗り移っているとはいえ、暖が母の愛子(紺野まひる)を見て「欲情してしまった」と言う場面には、母子相姦的な欲望が見え隠れする。『GOLD』(フジテレビ系)以降、野島伸司は母親を作品のテーマに置いているのだが、その描き方がどうにも歪なのだ。おそらく野島伸司は、10代の少女も母親も、すべて性愛の対象として見ているのではないかと思う。『49』を見ていて感心するのは、暖の目を通して描かれる、幸やマナに対する、性欲混じりの少女への憧憬の目線だ。野島伸司は63年生まれなので、今年で50歳のはずだが、いまだ枯れることない青臭さには頭が下がる。

 若手、ベテランに限らず、脚本家の多くが性愛をテレビドラマの中で描くことを避け、女優を淡白に描きがちの中で、野島伸司だけは、本気で10代の少女たちを邪な目で見ているのだ。それも、明らかに思い入れを込めて描いているのが、学園のマドンナのマナではなく、少し屈折しているメガネをかけた地味キャラの幸の側だというのが、「ベタだなぁ」と思いながらも、「わかってらっしゃる」と頷いてしまう。1話冒頭のいじめられた幸が屋上にいる暖の目の前で、濡れた制服を脱いで着替えるシーンは、野島伸司でなければ書けない名シーンである。
(成馬零一)

最終更新:2013/10/30 11:45
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