高田馬場のババンヌのブス魂をドス黒く刺激する、「コマザワンヌの素敵なワンコ生活」
結局、太郎のブリーダーさんにメールで相談。ブリーダーさんいわく、「マウントを始めたら、すかさず足をふんずけて下さい」との事である。「なるほどな!!!」思わず『ためしてガッテン』(NHK)のように、ガッテンガッテンと膝を打ち、犬のマウントを静かに待ち構え……そして。私の脚に犬がしがみついたと同時に、思いっきり、その後ろ足をふんずけた。が。
「ヒョイッ、ヒョイッ」「え!?」「ヒョイッ」「ぁあ!?」
思った以上に犬はすばしっこく、私がいくらふんずけようとしても、身軽にヒョイヒョイとかわしてしまう。予想外の展開に、焦る私。ふんずけてもふんずけても、私の脚につかまったまま、軽快なスッテップでかわす犬……。はたから見てたらまるで、犬と楽しげにダンスでも踊ってるふうである。私の頭の中で、軽快なサンバホイッスルのメロディーが鳴り響く……ピッピピ~~~♪ あまりにもくだらなくなって「後ろ足ふんずけ作戦」は即中止された。
それからしばらくして、である。
夫がおもむろに「知ってた?」と言う。「最近気が付いたんだけど、太郎、マウントした時に、こっちがすごくイヤそうな顔して、目を閉じて横を向くとやめるんだよ。今度試してみなよ!」……なんとなく、ムツゴロウからアドバイスをもらったような気分になり、なかば半信半疑で夫の言う通りにしてみた所。ビックリした。ほんとにこっちが、「イヤそうな顔をして目を閉じて横を向く」と、太郎の奴、私からスッと体を離すのである……驚いた。「ヒトの顔色が読めるなんて、おまえ、なかなかいい犬じゃねぇか」まんまと犬を手なづけた事で、私はホクホク顔で優越感に浸った。その後、何度かマウントを仕掛けられる事はあったが、すぐに不愉快そうに目を閉じてそっぽを向くと、犬は素直に身を引いた。「……マウント問題、これでどうにか乗り越えられそうだな」中尾彬のようなマッタリとした表情で、事態が終結に向かってる事を実感した私……。
……だったのだが。そうは問屋が卸さなかった。何故なら犬が、私の「不愉快そうな目を閉じた顔」を見ても、何も反応しなくなったのである。犬の方が私よりも、一枚も二枚も上手だった。私がいくら、苦しげに目を閉じて、眉間にシワをよせて横を向いても「だから何?」とでも言わんばかりに、私の脚にしがみついてくる。そのたびに私は何度も何度も、犬に対して「座頭市のような、苦しげに目を閉じた顔」を無理矢理見せつけるのだが、犬、私の表情を華麗にスルー。なりたくもないのに私は、日に何度となく「座頭市」と化してるのである。
そんな矢先の事であった。私は書店で「コマザワンヌとワンコの東京こだわりLIFE」(宝島社)という本を発見した。これは、雑誌「InRed」のムック本で、「駒沢・二子玉川・自由が丘などの憧れエリアで生活する、コマザワンヌたちのステキな暮らしっぷり」が、ウンザリするほど堪能できる本である。モデルの雅姫が2匹の飼い犬(トイプードル)を連れて、颯爽と駒沢公園をお散歩、オシャレなドッグカフェや雑貨屋を紹介してたり、犬連れコマザワンヌたちの素敵スナップ写真など、「さあ、憧れなさい」と言わんばかりの内容が目白押し。
やはり「犬連れ」の方が、コマザワンヌとしての完成度は高いようである。コマザワンヌたちの犬は、トイプーやミニチュアダックス、フレンチブルなどの犬種が多く、のしのしと秋田犬とか連れてる、西郷隆盛みたいな女なんているはずもない(いや、うちの近所にもそんな奴はいないが)。どのページをめくってもめくってもとにかく、「……さあ、憧れなさい、憧れなさい……!!!」という波動がほとばしっていて、憧れなかったら、後で何をされるかわからないくらいの勢い。まるで鼻先に、強烈な握りっ屁を押し付けられたような気分になり、高田馬場在住のババンヌ(私)は、嫉妬と羨望が混ざり合った醜い感情で頭がはちきれそうになった。
……どうして自分は、人から憧れられるような生き方ができないんだろう??? 「コマザワンヌたちは、自分の飼い犬にマウントされて、座頭市になったりする事なんてないんだろうな……」私は久し振りに、自分の中で「ドス黒いブス魂」が暴れ狂うのを感じたのであった。