カルチャー
[官能小説レビュー]

骸骨を前にセックスに耽る――“過去の男”への深層心理を炙りだす『枯骨の恋』

2013/10/21 19:00
『枯骨の恋』/メディアファクトリー

■今回の官能小説
『枯骨の恋』岡部えつ(メディアファクトリー)

 幼い頃はキラキラ輝いていた未来も、歳を重ねてゆくたびに、だんだんと期待が抱けなくなり、過去ばかりを振り返るようになる。それは、恋愛に対しても同様だ。歳を取ってから始める恋愛は、たいてい相手に昔の男の幻影を重ねてしまうものだ。捨てたり捨てられたりした男たちを振り返り、過去の自分や恋人と照らし合わせ、今の自分の恋愛に対して優劣を付けることもあるだろう。

 そんなふうに、過去の男を思い出す時、「彼は今どうしているのか」と不意に考えたりする。きっと誰もが、今もどこかで暮らしているはずと思うだろうが、もしその相手が、もうこの世に存在していないとしたら? とっくに別れてはいるけれど、再会の機会はもう二度とないのだとわかった時、女はどんな気持ちにさいなまれるのか、そして、その気持ちにどう折り合いを付ければいいのだろうか。

 今回ご紹介する『枯骨の恋』(メディアファクトリー)は、アラフォー女性が主人公となる7つの短編集。表題作となった『枯骨の恋』は、第三回「幽」怪談文学賞の短編部門大賞受賞作である。

 主人公の真千子は、40代を目前にしながらもいまだ独身だ。かといって、仕事が充実しているわけではなく、主婦のパートとほとんど変わらない低賃金を稼ぎ、細々と食いつなぐ日々を送っている。1人で暮らす真千子の部屋に存在する唯一の異物が、“骸骨”。それは、若い頃の恋人・博也のものである。

 片田舎の片隅に暮らす博也は、地元のアイドル的存在だった。突出したルックスもない彼が唯一持ち合わせていたのは、長身とそこそこのダンスと、ずば抜けた“もてなし力”。相手の求めるものを瞬時に見極め、提供する。その能力に惚れた者たちが博也の周りに群がっていた。高校を中退した博也の勤めるバーには、いつも女たちが群がり、その中の1人が真千子だった。

 高校で美術部に所属していた真千子は、ひょんなことからバーで開催されるパーティーのチラシやポスターをデザインすることになる。そのことがきっかけで、真千子は博也の取り巻き以上の近しい間柄になれた。

 しかし、時がたつにつれて、博也は次第に人から見放されてゆく。真千子が博也と交際することになった時、彼はすっかり輝きを失った、何の魅力も残っていない男性になっていた。

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