種明かしから始める、新感覚ホラー『アメリカン・ホラー・ストーリー』
ハリウッドでは、昔からテレビドラマ/コメディより映画の方がステイタスが高いとされており、テレビシリーズには出演しないという役者が多い。しかし、ここ10年でその考えは大きく変化。銀幕でしか見ることができなかった大スターたちが、テレビシリーズにこぞって出演するようになってきたのだ。
もはやテレビは二番手ではない。6年間連続して視聴率1位に輝いた伝説的テレビコメディ『となりのサインフェルド』は、1998年に放送終了した後も再放送やDVD販売などで27億ドル(約2,000億円)を超える収益を上げた。世界で最も視聴されているテレビ『CSI:科学捜査班』は、6,300万人以上が見ていると報告されている。巨匠マーティン・スコセッシ監督が手がけた『ボードウォーク・エンパイア 欲望の街』シーズン1の第1話の制作費は、なんと5,000万ドル(約50億円)。大ヒットしたテレビシリーズは映画以上に金を稼ぎ、役者を世界的なスターに押し上げる。世界的な知名度を誇る監督がメガホンを取り、ハリウッド大作映画並みの予算が組まれることも少なくない。
テレビシリーズのレベルを上げ、地位向上に貢献したのは、ずばり才能あふれる番組クリエーター/製作総指揮者である。彼らは、お茶の間の視聴者が求めているもの、興味を抱くものを敏感に読み取り、誰もが夢中になれる作品を作り上げてきた。『地上最強の美女たち!/チャーリーズ・エンジェル』『探偵ハート&ハート』『ビバリーヒルズ高校/青春白書』『チャームド~魔女3姉妹』などを手がけ、テレビ界のドンと呼ばれたアーロン・スペリングのように時代を代表する名クリエーター/製作総指揮者もいる。『CSI:科学捜査班』シリーズのジェリー・ブラッカイマーや、『エイリアス』『LOST』『フリンジ』を手がけたJ・J・エイブラムスのように、映画界に進出し大活躍する者もいる。
そして、今、最も旬なクリエーター/製作総指揮者といえば、ライアン・マーフィーをおいてほかにはいないだろう。美容整形外科医が主人公の過激な医療ヒューマンドラマ『NIP/TUCK マイアミ整形外科医』で注目されるようになり、誰も思いつかなかったテレビミュージカルドラマ『glee/グリー』で時代の寵児となった彼は、アンタッチャブルな問題やタブーを積極的に作品に取り入れ、挑発的ともいえるスタイルでテレビ界を盛り上げてきた。
そんなライアンが手がける、新感覚のホラードラマが、2011年10月から放送開始となった。人間の心の奥底に潜む欲望を、心霊、超常現象、幽霊と混じり合わせながら描いた、超話題作『アメリカン・ホラー・ストーリー』だ。
■ホラーと人間の欲望を融合したスタイリッシュなドラマ
物語の主人公は、とある洋館に越してきたハーモン家。夫婦仲は、妻の流産や精神科医の夫の不倫発覚でボロボロになっており、新しい町で心機一転を図ろうとしていた。だが、妻は夫を許せず、一人娘は両親に見切りをつけ投げやりになっており、手の施しようがないほど崩壊していた。洋館の生活は初めから奇妙なことばかりで、妻は我が物顔で家に出入りする隣人のコンスタンス夫人と彼女のダウン症の娘に戸惑い、夫は娘に興味を持つ若き患者テイトや、「この家は呪われている」と忠告する元家主のラリーに嫌悪感を抱くようになる。「この洋館の歴代の主に仕えてきた」というモイラは、妻には堅物の老女に見えるが、夫には露出度の高いメイド服を着る挑発的な美女に見え、誘惑に負けそうになる。屋根裏にはSM衣装や道具が置かれており、洋館全体に不穏な空気が漂う。実はこの洋館、繰り返し起きる奇怪な殺人事件の舞台になっており、新しい主となったハーモン家もまた呪いにのみ込まれていく。