母に“会いに行く”ことを選んだ息子、「ボケるとも悪か事ばかりじゃなか」
長崎在住の漫画家・岡野雄一氏のエッセイ漫画『ペコロスの母に会いに行く』(西日本新聞社)が、実写版で映画化された。11月16日に公開されるこの映画を題材に、息子の介護について考えてみた。
<登場人物プロフィール>
ゆういち(ペコロス)(63) バツイチ。40歳で、子連れで長崎にUターンし両親と同居
ミツエ(90) ゆういちの母。夫の死後、認知症を発症。現在はグループホームで暮らす
■ペコロスさんに潜む「息子介護」の怖さ
映画の中のペコロスさんは、仕事も、私生活もあまりうまくいっていない。バツイチだし、仕事もうまくいかなくてクビになってしまう。息子もフリーターっぽい。同居している母、ミツエさんの認知症も急激に進行してきている。ユーモラスに描かれているものの、かなり深刻な病状だ。危なくて、母を1人で留守番させるわけにはいかないところまで症状は進んでいる。
「息子の介護」で問題となるのは、息子が仕事をしている場合、仕事に行っている間は親が独居状態になること。それから、男は往々にして地域の中につながりもなければ、愚痴を言える場所もない。あるいはプライドが高いから、愚痴を言わない。仕事のようにして脇目も振らず一生懸命に介護をした挙げ句、仕事のような結果が出なくて(当たり前だ)ポッキリ折れる、ことも多い。
しかしペコロスさんは、ケアマネジャーさんのアドバイスで、母をグループホームに入れることにした。グループホームとは、認知症の人たちが家庭的な雰囲気の中で暮らす施設だ。だから、タイトルも「母に会いに行く」になったわけなんだけれど、「母を家でしっかり介護する」でなくて、本当によかったと思う。ミツエさんにとっても、ペコロスさんにとっても、いい選択だった。失業した息子が、認知症の母を家でずっと看るなんて、危険な「息子介護」の典型だ。繰り返しになるが、多くの息子介護がそうであるように、きっちり、真面目に、介護に没頭した挙げ句、虐待してしまったり、共倒れしたり、果ては新聞沙汰になったり……そんな例は枚挙にいとまがない。