母性神話が毒母を生む、負のスパイラルに……「婦人公論」が母娘問題に斬り込む
「ホンネ集 母たちの言い分」と銘打たれた読者からの声「親の務め、娘への愛……束縛なんかじゃありません!」でも、母たちは自分が正しいと信じて疑いません。「娘たるもの、仕事などよりまず私のことを大切にするのが当たり前」(82歳・元教員)、「あんな男といっしょになって……、娘の結婚が今からでもご破算にならないものか。腹が立ってしょうがないです」(52歳・主婦)などなど。小川眞由美の「女優という肩書への盲信」と、母たちの「母親という肩書への盲信」がぴったりと重なった本特集。思い込んだら、もう誰も止められない……。
■お母さんは「神様」じゃない
自覚的に毒母になった女性など皆無でしょうが、それではなぜ母は毒母へと変貌するのでしょうか。先ほどの「親の務め」「娘への愛」といった言葉の裏側にあるものはなんなのか。特集外ですが、今号にはこんな企画もあります。「ルポ 新たな母性神話が母を苦しめる あなたは、子どもを平等に愛せますか?」。同じ我が子のはずなのに、一方の子どもばかりきつく当たってしまう……「自分は母親失格なのではないか」という思いに苛まれた3人の母が登場しています。
次男を妊娠中に夫の浮気が発覚、まだ幼い長男を連れて離婚した女性は、日に日に元夫に似てくる長男への接し方に悩み中。「とにかくちやほやされていたいところとか、自分が一番でなければ気が済まないところ。一方で、肝心なところでは尻込みしたり、虚勢を張って我を通そうとする。都合の悪いことは弟に押しつけて……」と、まるで夫への愚痴を並べているかのような流暢さ。
2人目は、同じ女である娘に釈然としない思いを抱く母。「妹のほうは私が怒ってもしれっとしているんですよね。それどころか、ママに怒られるとパパのところに飛んでいってしなだれかかる(中略)ホント気色悪いったらありません」。
同じ「兄妹」でも、病弱な長男の世話にかかりっきりで、しっかり者の妹の面倒はあまり見てこなかったというのは3人目の母。結果、引きこもりになってしまった娘に対しても「今こそ、あの子としっかり向き合わなくてはと思うのですが、心から共感できない自分がいるのも事実」。
「お兄ちゃんばっかり贔屓する」「妹には甘い」などはきょうだい間で必ず出てくる「あるある」ではないでしょうか。ある程度の年齢になって考えれば、母親も子どもも個別の人間である限り“相性”があることを理解もできるのですが……。教育ジャーナリストの西東桂子氏によると「1人か2人の子どもを完璧に育てなくてはと気負うお母さんが多い。そこから、自分の子どもは無条件にかわいいはずという固定観念や、母親ならどの子も平等に愛せるはずという新たな母性神話が生まれているのかもしれません」とのこと。母子だけで閉じこもらず、父親や祖父母たちとも広い関係を築くことが解決の入り口ということでした。
“母親だったら○○できて当たり前”、“だって母親だから”……さも「選ばれし者の宿命」であるかのようにプライドをくすぐりながら押し付けられる「母性」。毒母と呼ばれる女性たちも、もしかしたら社会に押しつけられた「母性」の言説を信じ、従うがまま子育てすることを余儀なくされたのかもしれません。救いがあるとするなら、娘たちが声を上げたことで、そのしがらみが可視化されたことでしょうか。「婦人公論」が面白いのは、母の視点と娘の視点の両方を持っているところ。では、毒親に苦しめられてる「息子」は?
(西澤千央)