「セックスは、感情云々ではない」AV女優・森下くるみ、覚悟の根源とは?
女である私は、永遠に残るものであろうAVで、自らのセックスを曝す森下の気持ちがどうしても理解できない。だからこそ、一体どんな気持ちなのだろうかと、深く考えてしまうのだが、本書には森下に自傷癖があったこと、飼い犬に当たる癖や衝動買いをやめられない友人の話などもリアルにつづられており、思わず目を背けたくなってしまう。しかし、「現役時代の恋人とのセックス」について語った森下の言葉には、不安定に思える彼女の覚悟がありありと見え、胸が締め付けられた。
「彼氏とする方が感情が入っている分、気持ちいいんでしょ?」というライターからの問いに、森下は「どちらも気持ちいい」と答えているのだ。「男優にも彼氏にも、どちらに対しても手を抜かずに真面目な姿勢でセックスをする、感情云々ではなく本気でやるということが大事だ」と。私のような、素人考えなど一蹴するほど、堂々としたプロの意見。彼女にとってセックスとは、れっきとした仕事だと言い切ったのである。
父親からの愛情に飢えて育った森下にとって、肌を重ねるセックスという行為は、計り知れない淋しさを埋めるための愛情の代替行為だったはず。けれど、そんな森下がセックスを仕事と言い切ったその覚悟に、胸が震えた。
10年間もの間大勢の男性に愛されたAV女優・森下くるみ。彼女のように長い間現役でいられるAV女優は非常に稀だ。一瞬で消えてしまうAV女優と森下との違いは「AVに出演する」という“覚悟”の違いだと私は感じる。
しかし、この仕事への覚悟の根底にあるのは、やはり森下の愛情を強く求める心だとも思う。森下は、AV業界に足を踏み入れた理由として、「人を好きになりたい」からとも語っている。
幼い頃から、暴力によって自分への愛を否定されるという、世の中すべての人が敵だと感じても不思議ではない環境で育った森下だが、どこかで「誰かを好きになり、愛情を与えれば、誰かがきっと応えてくれる、自分を愛してくれる」と信じ続けていたのではないだろうか。そんな切実さが、逆に「仕事(=セックス)」に対する真面目な姿勢に表れたのかもしれない。そして森下は、人から愛される自分を好きになりたかったのではないだろうか。
森下の願いは、果たして叶ったのだろうか。それはわからないけれど、真摯な姿勢で作品に挑む彼女のひたむきな姿に、癒やされた男性はきっと大勢いるはずだ。
(いしいのりえ)