「セックスは、感情云々ではない」AV女優・森下くるみ、覚悟の根源とは?
■今回取り上げる作品
『すべては「裸になる」から始まって』森下くるみ(講談社)
さまざまなアイドルグループが誕生し、「アイドル戦国時代」といわれる現在。一般の女の子が、テレビや舞台に立って声援を浴びることが昔に比べて容易くなり、アイドルになる“きっかけ”も、変わってきたように思う。「AV女優を足がかりにする」というのも、その一例だ。AV女優をメインに集めてアイドル活動をしていた「恵比寿マスカッツ」の活躍がひとり歩きし、「アイドルになりたいなら、まずAV女優になることが近道」と考える女の子が出てきたというのだ。
なんと安易な考え方で、AV女優になるのかと驚いてしまうのだが、最近では、人気のイケメンAV男優に抱かれたいという、たったそれだけの理由で、AV女優を志す子もいるという。
世の中の男性たちにとってAV女優は、インスタントに性欲を解消してくれる存在。画面の向こうのAV女優たちは、笑顔を絶やさずに彼らの欲求に応え、躊躇なく裸を晒す。しかし、我々はそんな彼女たちの本音「なぜAV女優になったのか」「AV女優になって何を成し遂げたいのか」に、耳を傾けたことがあるだろうか?
今回の官能小説レビューは、少し趣向を変えて、架空の物語のような人生を歩んでいるAV女優・森下くるみの自叙伝『すべては「裸になる」から始まって』(講談社)をご紹介したい。本書には、森下がAV女優を志した「切実すぎる理由」がつづられている。
森下は、10年間アダルトビデオ業界の第一線で活躍し続けた、人気AV女優。東北に生まれ、幼い頃からずっと酒乱の父に怯えて暮らしていたという。しかし、高校2年生の時に両親の離婚が成立。その時のことを、「今までで一番嬉しかったこと」と語っている。
その後、高校卒業と同時に上京。スーパーの店員として働いていたが、スカウトを受け、18歳でAV女優としてデビューすることになった。スカウトマンが並べる「金」「有名」「芸能界」という謳い文句以上に森下が惹かれたのは、「スカウトマンが醸し出す非日常の空気感」だったという。森下にとっての日常は、父親に暴力をふるわれること、スーパーの店員として主婦に食料という“日常”を売ること――そんな暮らしにくすぶっていたのだろうか、森下は非日常の空気感に、完全に魅了されてしまったのである。