カルチャー
[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」9月5日号

“妻だけED”は女の不倫を正当化するツール! 「婦人公論」に見る夫婦の深淵

2013/08/30 19:00

 そう、“妻はオレとセックスしたがってるけど、オレは妻を女とは見れない(からできない)”と思っているなら、大きな勘違い。実際は“セックスレスという免罪符を持って、女は快楽の淵に飛び込みま~す”なんですよ。それでも夫婦を続ける意味とは……と考えさせられるこの対談。しかしその「わっかんね~な~」という部分にこそ夫婦というものの特性、人間としての面白さやおかしさがあるような気がします。ちなみに白石氏は法律上は結婚されていますが、ここ15年ほどは「妻」ではない女性と一緒に暮らしているそう。ホント人生いろいろ、夫婦もいろいろ、島倉千代子!!

■夫との思い出のラブホに浮気相手を連れていくその図太さ

 読者アンケートを見てみると、「浮気に対して罪悪感はある?」という質問に対しては、妻側は「ない」が70.1%。一方、夫側は「ある」が80.6%と真逆の結果に。「浮気だと思っていない。これが本当の恋です」(女・47歳・会社員)、「家事も子育ても完璧にしたうえでの行動だから文句は言わせない」(女・50歳・公務員)などのコメントを見ても明らかなように、妻側は浮気に対して強い意志と根拠なき自信を持っているのがうかがえます。「悪いのは自分ではない」という開き直りと、「絶対にバレない」という用意周到さがセットになっている。

 しかし矢口の例があるように、「絶対」はないのが婚外恋愛の世界です。今号の特集で特に面白いのは、浮気の向こう側にあるもの。浮気がバレたら夫婦はどうなるのか、一時の快楽が10年以上のズブズブになったら、あの人の子を身ごもってしまったら……。「ルポ “決定的証拠”をつかまれた!」では、4例のアンビリーバボー案件が紹介されています。

 綿密なアリバイ工作が裏目に出た妻、浮気相手の陰部にチョコレート塗ったバレンタインプレイの画像データを消去し忘れ自爆した妻などツワモノどもが登場する中、興味深かったのはPTA不倫妻のお話。PTAで知り合った男性とラブホに行ったら、駐車場で旦那と鉢合わせ。旦那の浮気相手がこれまたPTAの奥様というから、どんだけ仲睦まじいPTA! さらにこの妻、自分のことは棚に上げて「相手は仲間内で最も評判の悪い女。趣味が悪いし、安直すぎる。もう許せなくて」とブチ切れたというからタダモノではありません。しかし本当に興味深いのはここから。このご夫婦は直後の冷戦状態を経て、夫婦仲は以前より親密なものになったというではありませんか。なんでも鉢合わせたラブホが2人の思い出の場所で、そんなところに浮気相手を連れていくという奇妙な息の合い方が、かえってお互いの相性の良さを再確認するきっかけとなったとのこと。どうですか、やっぱり夫婦はよくわかりませんね。

 「彼が使うグッチの香水が、自分の肌に移りかすかに香る瞬間に、彼女は言いようのない満足感を覚えるのだ」(「ルポ 『10年不倫』の妻たち、天国と地獄のはざまで」より)。読者手記やルポからは、浮気というドラマの中で自分が苦しみ身悶えている様子を眺めてうっとりしているような、妙な客観性が漂っていました。それは冒頭の対談で村山氏が「物語を生きるのが女」と評した通り。動機も言い訳も十分に用意された物語の中で、婚外恋愛に走らざるを得なかった主人公としての役割を自分はまっとうしているだけ。罪悪感すら、恋愛を正当化するアリバイになるのです。あなおそろしや女の自己愛!

 社会が「妻/母」と「女」を引き離そうとすればするほど、女性はその落差をフリーフォールのアトラクションのように楽しもうとするのに対し、男性はスピードが出すぎないように懸命に足を踏ん張っている……そんな印象を受けた今回の特集。浮気でジェンダーを乗り越えようとするのが女で、浮気でジェンダーをより強固に体に刻みつけてしまうのが男、なのでしょうか。しかし、それもこれも結婚しているからこそ味わえる悦楽。それを間接的にでも与えてくれるのだから、大嫌いな夫に感謝すべきとまで感じた「婦人公論」でした。
(西澤千央)

最終更新:2013/08/30 19:00
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