安藤美姫の「父親は誰か?」探しでハシャギまくる週刊誌に踊る、男目線の言説
下世話、醜聞、スキャンダル――。長く女性の“欲望”に応えてきた女性週刊誌を、伝説のスキャンダル雑誌「噂の真相」の元デスク神林広恵が、ぶった斬る!
第181回(7/5~9発売号より)
毎日寝不足が続いている。朝7時半にNHK BSプレミアムで『あまちゃん』を寝ぼけ眼で見て、半分寝ていてわからなかった部分を補うために8時から再び地デジで見て……。昼の12時45分にちゃんと見ればいいとは思うが、一刻も早く次の展開が見たい! こんなに夢中になった朝ドラマは初めてだ。9月にペットロスならぬ「あまちゃん・ロス」現象が起こるのではないかと話題になっているが、本当にそうかも。『あまちゃん』燃えつき症候群が今から怖い。
1位「安藤美姫 『格下夫』と『未入籍出産』猛反対に貫いた女の意地」(「女性セブン」7月18日号)
参照1「安藤美姫 公表できない『父親』浮上した“第3の男”」(「週刊女性」7月23・30日合併号)
参照2「安藤美姫 “涙の人生”変えた『シングル母の覚悟』」(「女性自身」7月23・30日合併号)
2位「矢口真里 涙の激変! 見守る母も憔悴――『人目が怖い…』暗闇の孤絶』」(「女性自身」7月23・30日合併号)
参照「矢口真里『出られない…』孤独な“籠城”日々を支える母を直撃!」(「週刊女性」7月23・30合併日号)
3位「あゆ 元恋人内山麿我初激白120分!!」(「女性自身」7月23・30日合併号)
女子フィギュア・安藤美姫の未婚出産の公表は、その後恐ろしい騒動を巻き起こしている。もちろん芸能マスコミの一番の関心は「父親は誰か?」である。老舗「週刊新潮」(新潮社)は元コーチのモロゾフ説を打ち出した。モロゾフが2012年8月頃、「安藤に子どもができた。中絶してくれと頼んだが聞いてくれないと」と憔悴していたと、その根拠を報じた。さらに「週刊現代」(講談社)も「モロゾフの子供を生んだ安藤美姫」というタイトルでモロゾフ説に追随する。一方、「週刊文春」(文藝春秋)は元フィギアスケーターの南里康晴が父親だとして、無入籍の理由を南里の経済力のなさが原因だと記した。さらに「フライデー」(講談社)は南里に取材を敢行し、「違います」とのコメントを掲載、「週刊ポスト」(小学館)は「安藤美姫の恋人が明かした『父親の子供は僕じゃない』」と父親候補を連続直撃とハシャギまくる始末。
そして今週の女性週刊誌も、また全誌で安藤ネタを取り上げている。その中でも取り上げるべくは「セブン」だ。何しろ「セブン」は11年9月に表参道で安藤と南里の2人がイチャイチャデートをしている姿をスクープした雑誌である。当然、南里父親説をぶち上げた。そして未入籍の理由は、これまで女手ひとつで苦労して安藤を育ててきた母親の反対にあったからだと説明する。経済的不安定な南里とのデキ婚を許すわけにいかない。母親は条件を出した。「安藤美姫の名前を残すため南里が婿養子になること」「南里が生活の基盤を整えること」そして「ソチ五輪を目指すこと」――それが「セブン」記事である。ちなみに「自身」はモロゾフ、南里ともに父親説を否定したとの、いかにも後出しジャンケン的な記事。「週女」にいたっては第3の男として、なんと織田信成と元世界王者というスイス人スケート選手の2人の実名を挙げているが、しかし、さほど根拠があるとは思えず、信憑性についても大きな疑問が残る。
しかーし。そもそも安藤の未婚出産ってここまで騒ぐことなのか? 芸能人でもないし、政治家でもない。マスコミ総出で血眼になって父親探しをしてどうすんの? ひとりの女性がいろいろな困難や状況を越えて、子どもを産むことを決意した。それを尊重すべきだし、ガタガタ言う権利があるのは身内くらいだ。他人は他人らしく、25歳の決意を応援すればいい。それなのに「避妊もしないでアスリートの自覚がない」「自己管理がなってない」「ソチに出たいなんてわがまま」「出産して五輪に出場したシングルフィギュア選手はいない」なんて、批判まで巻き起こっている。大きなお世話だ。
安藤自身も、「日本のアスリートは、彼氏がいたりするとすごい言われたり、お茶をしたり休んだりすると“暇ならトレーニングしろ”と思う人がいる」と語っていたが、その通り。安藤にとって自分の人生は自分のもの。フィギュア界のものでも、ファンのためでも、日の丸ニッポンのためでもない。もちろん安藤という“選手”は日本やフィギュア界にとって至宝の存在かもしれないが、それとこれとは比べようもない。日本の、特にスポーツ界ってこうなんだよね。柔道連盟の騒動でもそうだったけど、個々人のプライベートや尊厳より、組織のメンツや利権が何百倍も大切ってわけで、そんな旧態依然とした男社会に斬り込み、一石を投じた安藤の姿は評価されるものだと思う。