「婦人公論」ならではの円熟味、夫婦問題は解決しないことこそ生きる知恵
■ごまかしごまかし生きる知恵
ここに出てくる夫たちは、きっと外では「うちはカカア天下だから」「嫁さんコワイ」とか言ってるんじゃないですか? でもいわゆる“カカア天下”とは、「妻<夫」という揺るぎ難い力関係の中で生まれた戯曲のようなもの。妻たちのアンケートでも、8割が夫に不満を伝えるも、あえなく玉砕している模様です。「DVが怖く、結婚31年目でようやく言えた(54歳・看護師)」という人も。それは極端としても「無視、聞いてないふり、開き直り、逆ギレ」する夫が多いようです。
男と女のいびつな力関係から、妻は真正面から夫と向き合うことをあきらめてしまう。それが迷い迷ってオカリナへ向かう……かどうかはさておき、「渡辺えり×柴門ふみ 変わってしまったのは夫なのか、それとも」対談でも繰り返し述べられているのは、男と女の脳と性質の違い。男の幼児性とプライドの高さ。それは最高にイラつくけど、この存在がなくなって、果たして孤独に耐えられるのか。「狭い部屋でいたわり合って、時々文句を言い合って、結局のところ、幸せってそういうことなんでしょうね(渡辺)」という言葉は、言い換えれば「まぁお互い様だし」ということ。夫の変化を期待するより、「自分とまったく同じ価値観、同じ感覚の人はこの世にいないのだから(渡辺)」と自分の視点を変える方が、よっぽどその“幸せ”に近づく方法らしいです。
「ねじめ正一×高橋秀実 邪魔者と言われるうちが花 無視されるのが一番堪えるんだよ」も「女性のほうが人間的スキルが高い」と礼賛しながらも、よくよく読めば変われない男のエクスキューズですし、「キレないための脳の“トリセツ”」も「ストレスを溶かしてくれる自分磨きに夢中です」も「きっと片づけられる夫に育ちます」も、すべて妻側のパラダイムチェンジを促すものでした。
みなさん、もうおわかりですね。「婦人公論」読者たちが「夫イラつく」問題を解決する気などさらさらないことを。イラついている気持ちは真剣そのものですが、だからといって別れるつもりはない。「愛はないけど情はある」なんて言っていますが、本音を言えば1人になるのが怖い。「婦人公論」における離婚とは“蜃気楼”です。マボロシだからこそ「いつか絶対別れてやる」という夢を追えるのです。雑誌も読者もそのお約束があるから、“夫いらねぇ”企画や婚外恋愛特集であんなに暴れられる。立場の弱さもそれゆえに生じるストレスも、こんな形でエンターテインメントに昇華させるなんて、女ってホントに恐ろしく業の深い生き物ですよ……。
この「夫はなぜ、私をイラつかせるのか」というタイトル、非常に「婦人公論」らしいエッセンスにあふれているとは思いませんか? ほかの雑誌であれば、「夫へイラつく現在」ではなく「イラつきを乗り越えた未来」をタイトルに据えるはず。例えば「ときめきも蘇る!? 夫へのイライラ解消法」とか「夫が変わる、私も変わる 夫婦リフォーム大作戦」とか。しかし長年オトコとオンナの愛憎を見てきた「婦人公論」は、そんな簡単に夫婦関係は改善しないことも、特に長年放置された夫が変わるはずないことも知っている。だからといって不満をため込むのも体に良くない。すべては妻の心の内に起こるドラマとして収束させるわけです。今日を生きる。今日が終われば明日を生きる。そんな繰り返しで、もはや原形がなんであったかわからないくらい発酵して、いいくさやになるんでしょうね、夫婦って。
(西澤千央)