女としての自分を封じ込めた「不妊」という現実――彼女が婚外恋愛に走った理由
「土下座して、謝ります」
美沙子さんは言う。しかし謝罪の内容は、一般的なものとは少し異なる。不貞行為自体を詫びるのではなく、他人とのセックスで“感じたこと”を謝罪するというのだ。
「これまでよくしてもらったのに、ごめんなさい、と。あなただけで満足できなくて申し訳ありません……って、土下座して謝罪して、1人になるしかないでしょうね」
それほどまでに、美沙子さんの人生にとっては、“女”を認識させてくれる直之さんの存在が貴重なのかもしれない。直之さんのことを語る時の、少女のような表情をする美沙子さんがあまりにも印象的で、もう1つ「都合の良い女に仕立て上げられて、悲しくはない?」と、意地悪な質問をしてしまった。すると美沙子さんは、きっぱりと首を横に振った。
「だって、彼も私にとって『都合の良い男』ですから」
と。
「セックスだけの関係といっても、もちろんいまだに、会社の給湯室の電子レンジで、愛妻弁当を温めている彼を見つけると、吐きそうになるくらいの嫉妬心を感じますよ。この歳になって、『好きな人から連絡が来ない』なんて思いつめて、泣けるんですよ? でもこんな思い、主人には一度も感じたことがありません。彼は私を『女』として目覚めさせてくれたんです。男性のことを思ってつらくなる――『こんなピュアな感情を与えてくれたこと』に、本当に感謝しています。彼に出会えてよかった」
婚外恋愛のリスクは、既婚者の誰もが百も承知だろう。しかし、女の性はひとえには表現できないし、本来女は欲張りな生き物だと思う。頭では「家庭を壊さないように」と理解していても、「彼にもっと愛されたい」と暴走してしまうこともある。だからこそ、美沙子さんほど腰を据えている女性は、そう多くはないのではないかと感じた。傍から見ればあまりにもリスキーだが、美沙子さん自身はこれからも、女として、妻としてのまったく異なる自分を確立したいという。
「夫にバレたら、土下座します。あなたで満足できなくてごめんなさいと、謝ります」取材後、女でありたいという思いがにじみ出た美沙子さんのこの言葉が、頭から離れなかった。
(文・イラスト=いしいのりえ)