「女はイク演技をする」日本男性に衝撃を与えた、1983年「前代未聞の女の性調査」
■『モア・リポート』が解放したものとは?
その内容は、「セックスは快楽。相手は誰でもよい」と言う23歳OLから、3歳ですでに性的な快感を覚えたという22歳女性、初体験が14歳で16歳で出産し、現在「14歳の娘を見て複雑な気分」という31歳主婦、「なぜか男性を信ずることができない」という26歳のセックス経験がない女性まで、さまざまな境遇と価値観の女性たちの、セックスに関する見方や経験や意見、あるいは不満や充実感などがつづられている。
データの中には、マスターベーションの経験者が88%、「性欲を感じる」という回答が96%などといった、興味深い結果が数多く掲載された。アンケートの回答は20~30代が多かったとはいえ、それまで「女性の自慰経験者は少ない」とか「性欲を感じることは男性に比べて少ない」などと一部で語られてきた定説が覆されたのだった。
『モア・リポート』は大反響を呼び、マスコミで大きく取り上げられた。特に男性視点での論評が目立った。男性はセックスについて、とかく自分本位になりがちだ。自分のテクニックに自信を持ちたいがため、女性が快感を覚える度合いやオーガズムに達するか否かについて、興味を持つ者が多かったようだ。しかし、『モア・リポート』で、多くの女性がパートナーを気づかって「オーガズムのふりをする」と回答。世間の男性たちの大半に驚きと衝撃を与えた。実に、セックスの経験がある女性の70%が、「オーガズムのふりをする」または「ふりをしたことがある」と答えたのである。
その後、「MORE」は87年に第2回目のアンケート『モア・リポートNOW』を実施。さらに、98年には『モア・リポート99』も行った。それらの結果については、単行本『モア・リポートNOW』『モア・リポートの20年』にまとめられている。『モア・リポート』と併せて、今日でもなお十分に価値のある資料であることは言うまでもない。
性に対してはとかく興味本位や、果ては根拠のない臆測や偏見などから、いい加減な記述や発言が交わされることが多々ある。「日本では古来より処女の純潔は価値があった」などというのは、そうした根拠なき憶測の最たるものだろう。そうした先入観や臆測から女性だけでなく男性をも解放したという点だけでも、『モア・リポート』は非常に重要な資料を我々に提供したといえよう。そして『モア・リポート』以後、女性向け雑誌や大手新聞など、これまで性について注目することのなかったような媒体なども、性意識や性行動について取り上げるようになっていくのである。
橋本玉泉(はしもと・ぎょくせん)
フリーライター。事件や世相などに関するルポのほか、歴史・文化、民俗・庶民生活、性風俗についての記事を多く執筆している。著書に、『怪しい広告潜入記』、『色街をゆく』(ともに彩図社)などがある。