あまちゃんヤクザが語る、1回潜って何百万円の「東北アワビ密漁」の実態
「もうね、なんだかんだで30年以上、この『商売』一筋で生きてますよ……」
宮城県・石巻の海岸線を見つめながら静かに語る男性(53)の目尻には、日に焼けた深いシワが刻まれていた。まるで宮大工や花火職人など、日本が誇る伝統技術を受け継いできたプロフェッショナルのセリフのようだが、何を隠そう、彼は密漁ヤクザ(あまちゃんヤクザ)である。
ターゲットは主に「アワビ」。ウニや岩ガキも狙われやすいが、アワビは特に高値で売買され、養殖場ではなく天然の海で生育されていることから、密漁にはうってつけの「獲物」だという。まして、三陸ブランドのお墨付きだ。
「ここらへんのヤクザのシノギとしちゃ、『密漁』は当たり前。1回潜って何十万、何百万になることだってあるんだから、俺らとしちゃ手堅い商売なんですよ。天然の海の幸を穫って何が悪いんだ、って話でしょ」
三陸ヤクザの中には漁業経験者も多く、実際のアワビ漁に使われる「道具」もすべて揃っているという。
「たいしたもんじゃないけどね。夜中にプレジャーボートで沖に出て、スキューバダイビングの格好して潜って、岩からひっぺがしてくるだけ。たまに水上警備艇に追っかけられるから、ボートのエンジン改造すんのにカネ使うくらいだよ。速えんだな、これがまた」
そんなことを語る彼らの表情は清々しい。そこに罪悪感らしきものが見られないのは、やはり「天然の海の幸」という大前提があるからなのだろうか。
「そりゃ『悪い』ってのはわかってるよ。警察も甘かねぇから、海でいくら逃げ切っても陸に着いたところでパクッとやられることもある。だけど、シャブみてぇにカラダに悪いもの売ってるわけじゃなし、アワビを安く仕入れられて助かってる飲食店だって、たくさんあるんだから」
事実、東北の飲食店や民宿旅館には、禁漁期(3~10月末)にもかかわらず、アワビ料理を客寄せのウリにしているところもある。だが、地元の飲食店に売り込むのは「素人」の手口であり、せいぜい小遣い稼ぎにしかならないという。彼らのような組織的な密漁ヤクザは、東北にとどまらず、関東や関西の仲卸業者へ委託販売し、大枚を稼いでいる。
「東北のアワビ密漁は『シャブ以上』に美味しいシノギですよ」
そう、彼らは「業」として密漁にカラダを張っているのだ。もはや密漁アワビは被災地東北の「資源」として流通しているといっても過言ではない。
だが、たまったもんではないのは、漁協や漁師である。彼らは高額な漁業権を支払い、所有する水域に稚貝を放流してアワビを育てている。その費用に年間数千万円もかかっているのだ。県レベルの放流経費は数十億円にも上るという。また、養殖場を荒らすわけではないので、窃盗罪は適用されない。多くのケースでは、県漁業調整規則違反によって、初犯なら罰金、再犯でも1年前後の懲役刑で済まされているという。
「シャブみてぇにカラダに悪いものではない」――と男性は言ったが、さらに付け加えるなら、シャブみてぇに重い罪にすら問われないのである。
宮城県密漁防止対策本部の発表によれば、「年間の被害額は20億円に上ることもある」といわれ、それはヤクザの資金源としても確認されている。震災後、津波によって漁協のインフラ整備が破壊され、密漁対策監視機能がストップしたことで、密漁者が特に増えた時期があったといわれている。
深夜、真っ黒なダイバースーツに身を包んだ密漁者たちは、酸素ボンベと水中ライトを手に、漆黒の海へと潜り込む。アワビもまた夜行性のため、彼らを歓迎するかのようにうようよとなまめかしく海の底で蠢いている。
(ヒロチカ)