コラム
「タレント本という名の経典」

自称「おっさん」の水野美紀に見る、男も女も油断させる巧妙なハニートラップ

2013/06/05 21:00

 例えば、本書の最初の項である「あめ色になるまで」。水野はたまねぎを炒める時に、いつもあめ色になる前に次の工程に進んでしまう。今日こそはと意気込んで挑戦するが、たまねぎはなかなか色づかず、飽きてきた水野はマネージャーである実弟に代わってもらいながら、たまねぎを炒め続ける。所要時間1時間。水野は「何度くじけそうになったかわからない」が、ようやくあめ色たまねぎを作ることに成功する。

 「負け戦を繰り返す話」の項も同様である。電気屋に行き、販売員の説明を聞けば聞くほど、どの家電を買っていいのかわからなくなる。パソコンともなると完全にお手上げで、販売員に「お使いのパソコンは?」と聞かれると、「ノートパソコンです。……え? そういうことじゃない?」と答えるレベル。1人での買い物は無理と判断した水野は、あきらめて友人やマネージャーに一緒に行ってもらうようにしたそうだ。しかし、iPod touchのケースが欲しくなった水野は、これなら1人で行ってもよかろうと判断するが、やはり誤ってiPhone用のケースを買ってしまったという。

 飽きたらゴネる。わからなくなったら人に頼る。自分の無知やミスをさらす。これらのエピソードが示すのは、水野が相当な「甘えん坊さん」であるということだ。でも、「パソコンが弱くて、間違った買い物をするのはおっさんぽくない?」とお思いの諸姉に、「水野甘えん坊説」ダメ押しエピソードをもう1つご紹介しよう。水野の初エッセイ『ドロップ・ボックス』(集英社)に収められている「MI2事件」である。

 水野の通っていた中学は校則が非常に厳しく、体罰も公然と行われていた。校則では、スカートはひざ下5センチまで。やんちゃな女子たちは長いスカートにするのがトレンドだった時代、水野はあえてミニスカートにした。同級生は驚き、男性教師は「いいぞいいぞ、もっと短くしろ」と悪ノリし、女性教師は「このままですむなよ」と水野にすごんだそうである。

 プロフィールによれば、水野は中1の時に「東鳩オールレーズンプリンセス」を受賞、芸能活動を始めている。当然、地元では評判の美少女であっただろう。教師とて男。美少女の白い脚は眼福で、お説教をする気が失せるのは致し方ない。

 そんな水野は、当時遅刻が多かったそうだ。やはり時間に遅れたある日の登校途中、コートの下に何も着ていない露出狂に出会う。あわてて学校に駆け込んだ水野は、厳しい生活指導の先生に遭遇してしまう。このままでは殴られる。そう思った水野は、露出狂がいて怖かったと嘘泣きして見せた。先生は露出狂をつかまえるため、外に出て行き遅刻は不問。その時、水野はうまくいったとにやりと笑い、女優になろうと決心したそうである。女の武器である「涙」を使い、怖かったと弱さを見せて「甘える」ことでピンチを打開する。水野は13歳にして、その術を知っていたのである。おっさんエッセンスゼロ、女の中の女である。

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