いじりの神どころか救いの神! 東野幸治の的確でムダのない言葉と立ち位置
今回ツッコませていただくのは、東野幸治のテレビでの活躍ぶり。東野といえば、「白い悪魔(人の不幸を良く笑う色白)」「人の血が通っていない」などと言われていたように、冷たく乾いた笑いの印象を持っていた人が、かつては多かったのではないかと思う。
だが、近年は『あらびき団』(TBS系)のMCを務めるなど、数多の若手芸人を世に紹介し、ブレークのきっかけを作っている。実力は疑う余地なく、好感度だって低くはないと思う。にもかかわらず不思議なのは、テレビでの仕事が、それほど多くないことだ。なぜなのか。それをあらためて考えさせられたのは、4月17日より放送されているバラエティ番組『もはや神ダネ』(フジテレビ系、5月22日放送分)だ。
この番組、「『いじりの神』東野幸治と『フォローの神』小籔千豊が全国の街や学校に出没!」を謳い文句としているが、実際には小籔の方が素人をやたらといじっている。この日も、高校のダンス部にやってきた彼らに窓から手を振る高校生に対し、「こんにちは」と挨拶した小籔が、こんな暴言を吐く。
「こっちが『こんにちは』ってゆうたのに、『こんにちは』ってゆえへんの、後であの子会うたら『カーン』しときますわ」
これ、関西であれば、相手もそれなりの返しをするだろうし、視聴者も笑って見るのだろうが、全国区では小籔の顔の怖さとツッコミのキツさに、引いてしまう人の方が多い気がする。すると、東野はすかさずこう返す。
「あれが東京風やねん。なんも問題ないわ」
単に怖い人になりそうだった小籔のツッコミを、ちゃんと笑いに変える一言である。
その後も、小籔が女子高生たちに「同時にしゃべるのやめて」「俺らが回すから」などと説教を始めると、すかさず東野がツッコむ。
「なんでみんな叱られてんの?」
妙な空気が、この一言によって救われ、女子高生たちも小籔を指さして「(小籔を)帰らせていい~」と嫌うという、安心のオチになった。さらにスタジオトーク部分でも、東野は憎たらしく小首を傾げてみて、フォローを忘れない。
「ごめんなさいね、ダンス部のみんな。小籔がうるさいから。つまんなくなっちゃったね(ハート)」
この前フリがあってこそ、小籔の口やかましく長い説教がオイシくなり、「嫌われ」ポジションが生きてくる。そこからはうるさく喋れば喋るほど、オイシい展開になるのだ。
東野は、自分自身がガンガン笑いをぶちこんでいくタイプではなく、周りを輝かせてくれる、バレーボールの「セッター」のようなタイプの芸人だと思う。誰かが多少スベッても、妙な空気になっても、東野がいてくれれば、笑いになる。
今最も売れっ子の有吉弘行に引けをとらない、「番組に1人いれば、どうとでもしてくれる」実力者だと思うのに、なぜ露出があまり多くないのか。1つは、中堅ゆえのギャランティの問題もあるのだろうし、もう1つは、新喜劇やローカル局の番組をやり続けるなど、仕事内容をある程度選んでいそうなこともあるのだろう。
昔は今田耕司とよくセット売りされていた東野。だが、その芸風は大きくかけ離れていて、いろいろユルくテキトーに流せる今田に対し、東野のコメントには「無難」とか「ユルい」ものがまったくない。一つひとつが的確で、ムダがなく、「場をつなぐ」ためだけの意味のない言葉を発することもない。実力的にはもっとさまざまなレギュラー番組を持っていても良いはずなのに、テレビの露出がそれほど多くないこと自体も、そう考えると、案外意味のあることなのかも。
(田幸和歌子)