カルチャー
『王妃の帰還』レビュー
大人になっても続く、「自分の世界」を守るためのスクールカーストという戦い
2013/06/03 11:45
とはいっても範子は、いかにも活躍できそうな場面で、自らが期待するほどの成功は収められない。それはほかの登場人物も同様だ。でも、そんな残念な自分をさらすことが、苦手な人とコミットする突破口になることもある。負けたり傷ついたりすることが、人生の終わりではない。その先にある道を、行きつ戻りつ、時に下ったりすることで、彼女たちは少しずつ、本当の意味で大人になっていく。
そして、そんなフラフラとした成長の歩みが丹念に描かれているからこそ、ラストで滝沢さんが一気に階段を駆け上がる場面が、より鮮やかに、立ち上がってくる。範子たちを見下し、通じ合うことは絶望的に思えた王妃・滝沢さん。彼女と対等に笑い合える関係を紡げたのは、滝沢さんが改心したから、という単純な理由ではない。範子たちも傷つき傷けられながら、たくましく変わってきたからだ。
「輝く女の子達がいる限り、必ず日陰の存在が生まれる」と範子がクラスを冷静に見つめるように、スクールカーストはなくならない。範子たちが変わったといっても、外から見れば、範子は相変わらず地味でオタク気質で、滝沢さんはオシャレとゴシップが好きで、2人の話は基本的に噛み合わない。けれども、外界と関わることを恐れなければ、スクールカーストの壁はいつでも越えられると身をもって経験したことが、範子の自信につながっている。だからこそ、範子たちと滝沢さんが屈託なく笑い合う幸福な瞬間は、とっくに中学生ではなくなった私たちの目にも、まぶしく美しく映るのだ。
(保田夏子)
最終更新:2013/06/03 11:45