「子どもが偉くなっても、親は寂しい」施設長が見た頑固な老人の空白
介護職はきつい、とよく言われる。その割には報酬も少ない。結婚したらやっていけないと離職する若い人も多い。負の側面ばかりが強調されているが、「介護は天職」と言い切る人も実は結構いる。外部の人間には言いやすいのか、介護の仕事に生きがいを見だし、胸を張って仕事の内容を話してくれることも少なくない。そんな人が私たちの親を、介護制度を支えていてくれている。そんな話を伝えることも大切だと思う。
<プロフィール>
田辺 小夜子(49) 山陰地方のグループホームの責任者
宇都宮 勤(89) 10年前に妻を亡くしずっと1人暮らしだったが、半年前にグループホームに入居
■介護は天職だと目覚めた
田辺さんが介護の仕事に就いたのは、今から8年前。子育てにようやく一息ついた頃だった。パートで働こうと考えていた田辺さんが興味を持ったのが、介護の仕事だった。訪問介護の仕事なら、時間もある程度融通が利く。ホームヘルパーの資格を取得すると、すぐに訪問介護のヘルパーを始めた。
「もともとおばあちゃん子だったので、高齢者のお世話や世間話も苦にならなかったし、利用者さんにもかわいがってもらいました。これは私の天職だと、すっかり介護の仕事に目覚めてしまったんです」
子どもが高校に進学すると、老人ホームで働くようになる。
「夜勤もあるので確かに身体はきつかったですが、お客様とずっと生活を共にするわけですから、訪問介護よりももっと深いところで関われるような満足感が大きかったんです。ほかのスタッフには打ち解けてくださらないお客様が、私とは楽しそうに会話してくださるとやりがいも大きくなって、ケアの改善点を施設側に提案したりもするようになりました」
そんな働きぶりが評価されたのだろう。ホームで働きだして3年後、田辺さんは系列のグループホームの責任者になってくれないかと打診された。グループホームは、老人ホームよりは小規模だが、認知症の人のための施設で看取りも行っているので、責任者は重責だ。もちろん、どんな施設でもそうではあるが。それでも田辺さんは、オファーを受け入れた。自分が責任者になることで、少しでも理想の介護に近づけるのではないかとも思っていた。